『グソクムシは、グソクムシはさすがに、何処の水族館にもいるとは言えないよ!?』

と、局長は言いました。

そんなことを、私に言われましても。

私も、水族館と名のつく場所に行くのは、初めてだったので。

他の水族館との、区別が付きません。

でもグソクムシくらいなら、皆さんご存知なのでは?

『他には!?その水族館には、他に何の魚がいたの!?』

「え?ですから、サメやカニやラブカや…」

『最後!最後の何!?およそ、普通の水族館にはいそうにない生き物、混じってなかった!?』

と、局長は聞きました。

ラブカのことですか?

ラブカなら、私はお土産にキーホルダーを購入しました。

折角なので、局長にもお見せしましょうか。

私は、ニシキヘビの隣に飾っていた、ラブカのキーホルダーを手に取って、モニターに映しました。

「これです」

『うぴゃぁぁぁ気持ち悪い!やめて!夢に出てくるから!』

と、局長は画面の向こうで叫びました。

そして、あわあわとしながら、またしても両手で目を塞いでしまいました。

見たくないのでしょうか。残念です。

こんなに勇ましいくて、相手にとって不足なしの相手は、なかなか見つからないでしょうに。

『そ、その、瑠璃華さん。瑠璃華さんの行った水族館って…も、もしかして…』

と、朝比奈副局長は言いました。

もしかして、何なのかは知りませんが。

私が行ってきたのは。

「『見聞広がるワール 深海魚水族館』です」

『…あ、やっぱり…』

と、副局長は呟きました。

何がやっぱりなんですか?

『成程ね!それでそんな気色悪、いや、独特なキーホルダーを持ってる訳だよ。爬虫類の館に続いて、深海魚水族館とは…!』

「とても興味をそそられる場所でした。是非、乱闘してみたかったです」

『それはやめましょう。ちなみにそれ、発案者は誰?言いだしっぺはどっち?』

「私の提案です」

『…奏君が可哀想過ぎて、私が代わりに彼に謝りたいよ…』

と、局長は天を仰いで呟きました。

何故、局長が奏さんに謝らなければならないのか、さっぱり理解不能ですね。

『よ、よく付き合ってくれましたね。耐性があったんでしょうか…?』

と、副局長は尋ねました。

耐性というのが、何に対する耐性なのかは不明ですが。

「タカアシガニのキーホルダーを渡したら、顔が引き攣っていました」

『…そうだろうね』

と、局長は言いました。

きっとあまりにもタカアシガニが強そうで、武者震いしてしまったんでしょうね。

『それでも付き合ってくれるなんて…。やっぱり愛だね。愛の力は凄いね、翠ちゃん』

『は、はい…。かなり一方通行…。と言うか、瑠璃華さんはちっとも気づいていませんが…』

『本当にね…こういうことに関しては、碧衣君をちょっと見習って欲しいよね…』

と、局長と副局長は会話をしていました。

碧衣さんを見習う?

確かに、彼は人間あしらいがとても上手ですからね。

さすが、先に『人間交流プログラム』の検体に選ばれただけのことはあります。

私も、見習わなければなりませんね。