アンドロイド・ニューワールド

一通り、『見聞広がるワールド 深海魚水族館』を見て回り。

私と奏さんは、お土産屋さんに行きました。

折角ですから、ここに来た記念に、お土産を買っておこうと思ったのです。

爬虫類の館のときも買いましたしね。

「さて、奏さん。お土産は何にしましょう?」

「はぁ、死ぬかと思った…死ぬかと…」

と、奏さんは私の質問には答えず、ブツブツ呟いていました。

死ぬかと思ったときは、大抵死にませんから、むしろ安心して良いと思います。

とはいえ。

「確かに、凶悪そうな深海魚ばかりでしたからね。丸腰で挑むには、危険が大きかったでしょう。今日は襲われなかったから良かったですが」

と、私は言いました。

奏さんへの労いです。

今日は、魚の機嫌が良かったようで、襲われずに済みましたが。

今度来たら、バトルに勃発することもあるかもしれません。

警戒しておくに越したことはありませんね。

しかし。

「う、うん…。そういう意味じゃないけどね…」

と、奏さんは言いました。

そういう意味じゃない?

なら、どういう意味なのでしょう?

「そ、それより瑠璃華さん。お土産は何買うの?」

と、奏さんは聞きました。

そうですね。お土産を選ばなくては。

「ふむ…。ミツクリザメの佃煮などがあれば、久露花局長にプレゼントしていたんですが…」

「…局長さん、可哀想…」

「残念ながらそのような商品はないので、またキーホルダーにしましょうか」

と、私は言いました。

可哀想などと言っていますが、これは私なりの優しさを見せたつもりです。

久露花局長は普段、砂糖に溺れているのではないか、と思うほどに甘いものばかりを口にしているので。

たまには、甘味のない食べ物を食べて。

世の中には、甘味以外の味もあるのだということを、局長の味蕾に思い出させる必要があるのではないか、と思っただけです。 

残念ながら、加工された深海魚の食料品は見当たりませんので。

やはり今回も、爬虫類の館のときと同様、キーホルダーを買うとしましょう。

そして、現在家にあるニシキヘビのキーホルダーの隣に、並べて飾っておくことにしましょう。

爬虫類と魚類…喧嘩しないか心配な組み合わせですが。

奏さんの分と合わせて、二つ選ばなければいけまけんね。

「瑠璃華さん、ほら、そこのクリオネなんかかわい、」

「では私は、ラブカのキーホルダーを購入しますね」

「…そっか」

と、奏さんはポツリと言いました。

何だかクリオネなんて言葉が聞こえた気がしますが、恐らく気のせいでしょう。

クリオネとは、戦う気も起こりませんからね。

「それから、奏さんの分はどれにしましょう…」

「え、えぇと。じゃあ代わりに俺がクリオネ、」

「タカアシガニのキーホルダーにしましょうか」

「よりによってそれ!?」

と、奏さんは珍しく、大きな声を出して言いました。

何だかクリオネなんて言葉が聞こえた気がしますが、恐らく気のせいでしょう。

クリオネとは、戦う気も起こりませんからね。

やはり、ここは勇ましいタカアシガニをセレクトすべきでしょう。

このタカアシガニの立派な手足が、きっと、逞しく奏さんを守ってくれることでしょう。

「では、会計してきますね」

「俺の…俺の選択権が行方不明…」

と、奏さんは呟いていました。

意味不明です。