アンドロイド・ニューワールド

では、次に行きましょう。

「ノコギリザメだそうですよ、奏さん」

と、私は言いました。

いよいよ、サメが出てきましたね。

いると思っていましたよ。深海にも当然。

先程はエイでしたが、今度はいよいよサメです。

ノコギリエイと同じように、ノコギリのような長い吻が特徴的ですね。

「う、うん…」

と、奏さんは相変わらず、視線を彷徨わせながら言いました。

何だか生返事ですね。

勝てる自信がないのでしょうか。

確かに、両足のない奏さんにとっては、キツい相手だと思います。

しかし。

「大丈夫です、奏さん。自信を持ってください。こちらが機動力に欠ける場合、罠を張って敵を誘い込み、包囲戦を仕掛けるという手もあります」

「え、な、何の話?」

「それに何より、奏さんには私がついています。私が必ず、此奴らの吻をへし折り、奏さんを守ってみせますから。ご安心下さい」

「…た、頼もしいんだけど…。俺は別に、勝負に負ける心配をしてるんじゃなくて…」

「さぁ、安心して次を見ましょう。次は甲殻類ですね」

「…話聞いてない…」

と、奏さんはポツリと呟いていましたが。

私は既に、目の前の深海に住む甲殻類のことで、頭の中がいっぱいでした。

実に興味深い生き物ですね。

「此奴は…ヒラアシクモガニという名前だそうです。覚えにくい名前ですね」

「うっ…」

と、奏さんはそのカニを見るなり、壁の方を見つめました。

大丈夫でしょうか。

「手足が長いですね。可食部は少なそうです」

「食べないよ…。うぅ、分かってはいたけど、クモみたいで気持ち悪い…」

と、奏さんは呟きました。

クモ、嫌いなんでしょうか?奏さんは。

確かに、クモは毒を持つ種類もいますからね。

戦うときには、相応の準備が必要になります。

「その隣は…タカアシガニだそうです。これは大きいですね」

と、私は水槽の中を見て言いました。

まさに、深海のカニにおいて、我に並ぶ者おらず、みたいな風格を感じさせます。

人類がこんな生物と戦う映画を、以前観たことがある記憶があります。

しかし。

「…」

と、何故か奏さんは無言でした。

しかも、こちらを見ようともしていません。

大丈夫でしょうか。

それとも奏さんは、背中にも目があるのでしょうか。背中の目で見てるとか?

便利ですね。

「奏さん?どうかしました?」

「…何でもない…」

と、奏さんは言いました。

何でもない割には、挙動が不審なように見えますが。

「振り返っちゃ駄目だ…。絶対気持ち悪いから…。夢に出てくる系の奴だから…」

と、奏さんは一人で、ブツブツ呟いていました。

本当に大丈夫でしょうか?