アンドロイド・ニューワールド

ともかく。

無事、到着したので。

それでは、中に入りましょうか。

「腕が鳴りますね奏さん。一体海底には、どんな魑魅魍魎が蠢いているのか…」

「う、うん…。興味があるのは良いことだと思うけど、腕を鳴らす必要はないと思うよ」

と、奏さんは言いました。

なんとも弱気な発言です。

「いえ、魚と言えども、相手は海底奥深くに潜む猛者達。油断してはなりません」

「あのさ、瑠璃華さん…。爬虫類のときもそうだったけど、何で戦う前提なの…?水族館って、闘技場じゃなくて、ただ鑑賞する為の、」

「もし万が一水槽が割れて、奴らの牙がこちらに向くようなことがあったら、戦う運命になるかもしれません。油断大敵です。万全の準備をしておきました」

と、私は持参したボストンバッグを、地面に下ろしました。

今こそ、これらの出番です。

「あっ、しまった…!また変なもの持ってきて…!時間のことばかり気にして、待ち合わせした駅で荷物検査するの忘れてた…!」

と、奏さんは言いました。

何ですか荷物検査って。

「今回の敵は、常に水の中にいることが前提です。よって、奴らと戦うとなれば、当然水中戦が予測されます」

「魚の方は良いとして、瑠璃華さんは、どうやって水中に入るつもりなの?水槽鍵かかってるよ?」

と、奏さんは言いましたが。

持ってきた装備品を披露することに夢中な私は、奏さんの言葉は耳に入っていませんでした。

正しく言うと、耳に入ってはいましたが、頭には入っていませんでした。

「従って私が持ってきたのは、まず水中において機動力を確保する為、耐水圧スーツ、シュノーケル、水中メガネ、そして小型酸素ボンベを用意しました」

「…あぁ…また変なことやっちゃってるよこの子…」

と、奏さんは天を仰いで言いました。

が、やはり私の頭には入ってきていないので。

「とはいえ、『新世界アンドロイド』は水中戦闘モードに移行すると、身体機能が耐水圧仕様になる上、更にそもそも私には酸素が必要ないので、酸素ボンベは必要ないのですが」

「じゃあ何の為に持ってきたの…?」

「私には必要なくても、奏さんには必要かと思いまして」

「心配しなくても、俺は深海魚と水中で戦闘になるようなことはしないよ」

と、奏さんは言いました。

しかし、その考えは甘いというものです。

「分かりませんよ、奏さん。人生は長いです。万が一ということもあります。もし深海魚と戦闘する機会があったとき、焦らず対処し、迅速に命を守る為の行動が出来るよう、日々備えをしておくことは大事です」

「うん。言ってることは凄く正しいんだろうけど、でも深海魚と水中戦を想定して生きてる人は、多分瑠璃華さんくらいじゃないかな」

と、奏さんは言いました。

更に。

「他にもありますよ。やはり敵と戦うには、武器が必要です。まずは前回も持ってきたサバイバルナイフ、そして今回は対深海魚ということで、スタンガンも用意しました。更には、ほら。折りたたみ式の銛も用意してきましたよ」

「…漁…?」

「さぁ、これで戦の準備は整いました。いざ出陣です奏さん。必ず、生きてこの水族館を出ましょう」

と、私は力強く言いました。