アンドロイド・ニューワールド

先日、今日の約束をしたとき。

奏さんは、やけに私に強く念押ししてきました。

「駅で一晩明かしちゃ駄目だよ。良い?待ち合わせ場所っていうのは、早くても30分前、精々10分前に着けば、それで充分なんだから。何ならちょっと遅れても良いんだから、絶対一晩待ったりしちゃ駄目だよ。分かった?噂になってるんだからね、『○○駅には、恋人に捨てられて自殺した若い女性の幽霊が、未だに恋人を駅で待ち続けてる』って。分かった?そんなに早く待ってなくて良いんだから」と。

ここまで奏さんに言われれば、私も言うことを聞かざるを得ません。

その幽霊って、私のことですか?

色んな尾ひれがついているようですが、私は幽霊ではありません。

そして、幽霊を見たこともありません。

非現実的な存在です。

しかし、否定はしません。

見たことも会ったこともない存在を、勝手に否定する理由はありませんから。

さて、話を戻しますが。

「大丈夫ですよ、今日は」

「本当に?」

「はい。ちゃんと、日付が変わってから来ました」

「…」

と、何故か奏さんは無言になりました。

何故黙るのでしょう。

「…それってつまり、午前0時を過ぎた頃に来た、ってこと?」

「そうですね」

と、私は答えました。

正確に言うと、午前0時2分26秒に到着しました。

私の体内時計、ならぬ脳内時計は、いつだって正確ですから。

それなのに。

「違う。そういうことじゃない」

と、奏さんは言いました。

理解不能です。

「結局夜明かしてるじゃん!」

「でも、日付が変わった時点で今日の出来事なのですから、そこまで気にする必要は」

「気にするよ!瑠璃華さんがいくらそんなに早く待ってたって、俺は深夜に待ち合わせ場所に行く習慣はないよ?」

と、奏さんは言いました。

そうだったんですね。

「それは知りませんでした」

「知っておいて欲しかったよ。常識的に」

「分かりました。では今度から奏さんとお出かけするときは、太陽が昇る頃に来ることにします」

「かなりマシになったけど、それでも早い」

と、奏さんは言いました。

それから、また二人で電車に乗り。

ゴトゴトと揺られながら、目的地の駅まで向かい。

『見聞広がるワールド 深海魚水族館』に着くまで、ずっと。

「夜から待ってなくて良い。待ち合わせ時間の、精々10分前に辿り着くように家を出れば良い。そもそもそんな時間に電車は動いてないし、施設だって開いてない」

と、奏さんにこんこんと説教されました。

更に、

「若い女性がそんな夜中に外にいたら、物騒でしょ。悪い人達に襲われたりでもしたら、どうするの?」

と、奏さんに聞かれたので。

「そのときは戦います」

と、私は答えました。

すると。

「…うん。勝てそうではある。でもやっぱり危ないから、夜から待ってなくて良い」

と、奏さんは真顔で言いました。

奏さんは心配性ですね。