アンドロイド・ニューワールド

では、改めて。

「私はお弁当というものを見たことがありません。そして、以前読んだ本や、鑑賞した映画を参照して、お弁当という食べ物は、総じて白米の上に梅干しを一つ乗せる、日の丸弁当を想定していました」

と、私は言いました。

「…」

と、湯野さんは無言です。

「しかし皆さんのお弁当を見たところ、日の丸弁当とは程遠いようです。よって、後学の為にも、皆さんのお弁当を観察させてください」

と、私は言いました。

完璧です。この上ない説明でした。

すると。

「…別に見るのは良いけど…」

と、湯野さんは答えました。

やはり、私の説明不足がいけなかったのですね。

丁寧に説明して、やっと許可を頂きました。

「ありがとうございます。では観察させて頂きます」

「って言うか、電波ちゃんお弁当持ってきてないの?」

と、不意打ちで湯野さんに聞かれました。

「はい」

「え、それで私達からタカろうってこと…?購買言ってくれば?」

と、湯野さんに聞かれました。

購買とは何ですか。

「って言うか電波ちゃん、アンドロイドなんでしょ?アンドロイドに食事は必要ないんじゃないの?」

すると。湯野さんは一転して、にやりと笑顔で言いました。

友好の証ですね。

とはいえ、何だか人を小馬鹿にしたような笑顔で、あまり良い印象は抱けません。

彼女の癖なのでしょうか。

「はい、食事は必要ありません」

「じゃー、いちいちお弁当見なくていーじゃん。それとも、本当はお腹空いたのかなー?」

と、湯野さんは聞きました。

相変わらず友好の笑顔を浮かべてはいますが、人を小馬鹿にしたような笑顔です。

やはり、彼女の癖なのでしょうね。

あまり良い癖とは思えないので、即刻改善した方が彼女の為だとは思いますが。

彼女が好き好んで、その癖を直さず放置しているのであれば。

指摘することで、彼女との友好関係が傷つきかねません。

指摘するのはやめておきましょう。

「『新世界アンドロイド』に、空腹の概念はありません」

「へぇ〜」

と、湯野さんとその周りの女子生徒は、半笑いでした。

皆さん、その笑い方が癖なのでしょうか。

世の中には、類は友を呼ぶということわざがあります。

同じ癖を持つ者同士が、一堂に会しているのかもしれませんね。