アンドロイド・ニューワールド

さて。

人生、ならぬアンドロイド生初めての授業を終え。

その後、また別科目の授業を、立て続けに複数受けていると。

四科目目が終わった段階で、クラスメイト達は、奇妙な行動を始めました。

お互いに机をくっつけ合ったり、財布片手に教室から出ていったり。

これはいかなる現象なのか、と思いましたが。

時刻は、既に正午過ぎ。

そう、昼休みという時間がやって来たのです。

新鮮な感覚です。

私達『新世界アンドロイド』は、水や食物を必要としません。

ついでに言うと、睡眠も必要ありません。

しかし普通の人間は、こうして一日に数回の食物摂取と、水分摂取を行わなければ、死んでしまう生き物なのです。

成程、それでこの時間になると、食物摂取の為に、昼休みが設けられているのですね。

理解しました。

で、そこで私はどうしましょう。

前述の通り、私は食物を摂取する必要はありません。

が、食べる必要がないというだけで、食べられない訳ではないのです。

食物摂取の機能は備わっています。

何の意図があって、わざわざ『新世界アンドロイド』に食物摂取機能をつけたのかは分かりませんが。

研究所にいた頃は、ほぼ毎日のように。

嗜好品として局長から、糖分を多く含む…所謂スイーツという食べ物を…与えられたものです。

お陰で、私の味覚は甘い味ばかりを覚えてしまっています。

それはともかく、私は人間達に溶け込む為に。

食事の必要がなくとも、皆と同じように食物摂取をした方が良いのではないか、と判断しました。

一種の同調圧力ですね。

教室内を観察してみると、机をくっつけ合っているクラスメイトは、お互いに、持参したランチボックスを開けていました。

あれが世に言う、お弁当というものですね。

私が想像していたお弁当とは、ぎっしりの白米の上に、梅干しを一つ乗っける、所謂日の丸弁当というものでしたが。

彼らのお弁当は、全然日の丸弁当ではないようです。

知見を広げる為に、私は更にお弁当というものを観察してみることにしました。

丁度、隣の席の湯野さんが、他の女子生徒数名と共に、お弁当を広げていたので。

佐賀来教師も言っていました。

分からないことがあれば、湯野さんに聞くように、と。

有言実行です。

「申し訳ありませんが、湯野さん」

「あ、電波ちゃんだ。どしたのー?」

と、湯野さんは言いました。

意味は分かりませんが、素敵なあだ名で呼んでくれて感謝します。

きっと、友好の証ですね。

「その食べ物、お弁当というものを観察させて頂いて宜しいでしょうか?」

「は?」

「私が想像していたお弁当とは、かなり形態が違うようなので。見聞を広げ、知識を増やす為にも、実物を観察させて頂きたいと思いまして」

と、私は言いました。

「…意味分かんないんですけど…」

と、湯野さんは言いました。

私はとても丁寧に頼んだつもりなのですが、何故か伝わりません。

今朝から、こんなことばかりです。

もしかしたら、彼らの理解能力が低いのではなく、私の説明不足なのでしょうか。

ならば私はもっと、丁寧な説明を心掛ける必要があります。