アンドロイド・ニューワールド

奏さんが、持ってきた荷物の大半を、ロッカーに預けた方が良いと言うので。

私は奏さんと共に、駅に備え付けられているロッカーにやって来ました。

…。

「奏さん。それでもやはり、サバイバルナイフは持っておきませんか?対爬虫類戦だけではなく、サバイバルナイフは様々な用途で使える優れ物です」

「いや、要らないから。何を想定してるの…?」

と、奏さんは答えました。

駄目ですか。そうですか。

折角、ワニの強靭な顎にも対抗出来るよう、砥石でしっかり研いできたんですが…。

仕方ありません。あなたの出番は、次回に持ち越しとしましょう。

ロッカー行きです。

「万が一のときの為の、救急セットは?これなら血清も入っていますし、万一毒ヘビに噛まれたとしても…」

「そんな万一はないでしょ…」

「しかし、不慮の事故というものは、いつでも起きる可能性があります。爬虫類の館だけではなく、道中の列車で事故が起きるかもしれません」

「嫌な万一を想定してるなぁ…。…まぁ、そこまで言うなら、救急セットは持ってても良いと思うよ」

と、奏さんは言いました。

良かった、許可が下りました。

この中には、医療用のメスと、麻酔薬も入っています。

これなら、あの映画やドラマで定番の、

「お客様の中に、お医者様はいらっしゃいませんか!?」、「私で良ければ」の展開も、夢ではありませんね。

一度で良いから、あれ、やってみたいですよね。

もしかしたら、今日そのチャンスがあるかしれません。

期待して待ちましょう。

「瑠璃華さん」

「はい?」

「なんか、妙にわくわくしてるところ悪いけど…その黒い、ゴワゴワしたものは何?」

と、奏さんは聞きました。

私、今わくわくしてましたか?

全然、そんなつもりはなかったのですが…。

黒いゴワゴワしたもの…。リュックサックの一番下に、押し込んでいたものですね。

「これは寝袋です」

「ねっ…。寝袋?何で?泊まりがけのつもりだったの?」

「いえ、『新世界アンドロイド』には睡眠の必要がないので、寝る為に持ってきた訳ではありません。体温調節の為です」

と、私は答えました。

「体温調節…?」

「はい。戦いが長期に長引いた場合、爬虫類の館で、夜を明かすことになるかもしれないと思いまして。『新世界アンドロイド』の通常モードでは、体温調節までは不可能なので、対戦する爬虫類の生息地帯が砂漠気候であることを想定し、体温を保持する為に、寝袋を持ってきました」

「…」

「あとは、昨夜駅で待っているところ、万一冷え込んだときの為に使えるかと。まぁ、結局使いませんでしたが」

「…え?」

と、奏さんは不意を突かれたように首を傾げました。