先程も、かなりの速度で走ったつもりですが。

それでも、奏さんと車椅子を担いでいたので、どうしてもその分、速度が出ませんでした。

しかし、今は違います。

一瞬にして身軽になった私は、全速力でグラウンドを駆け抜けました。

一応通常モードのままなので、理論上、人間が出せる身体能力を越える速度は、出ていないはずですが。

それでも、素人の学生相手では、充分だったようで。

私は、次々と左右を走っている生徒をごぼう抜きにして、私の次に走ることになっているクラスメイトめがけて、走り抜けました。

何なら私の足が速過ぎて、次のクラスメイトがテイクオーバーゾーンに出てくるのが遅れていたくらいです。

何をやってるんですか。ちゃんと待っててくださいよ。

よく見たらあなた、さっき入場門に入るとき、奏さんに罵詈雑言を吐いていた男子生徒じゃありませんか。

これでもうあなたは、奏さんに罵詈雑言は吐けませんね。

「はい!」

と、私は言いながら、勢いのままにバトンをその男子生徒に手渡す…、

と言うか、叩きつけました。

「痛っ!」

と、男子生徒は言っていました。

ちょっと張り切り過ぎてしまったようです。

が、痛がっている暇があったら、早く走ってください。

散々奏さんを馬鹿にしたのだから、それなりの走りは見せてくれるのでしょうね。

ようやく我に返ったクラスメイトの男子生徒が、慌てて走り出したのを見て。

私は、全てをやり遂げた使命感でいっぱいでした。

依然として私は、唖然としている観客と生徒達には、全く気づいていませんでしたし。

「…恥ずかしい…」

と、真っ赤になった顔を両手で押さえている、奏さんにも気づいていませんでした。