アンドロイド・ニューワールド

「さぁ、いよいよ出番です。腕が鳴りますね、奏さん」

と、私は言いました。

が、

「う、うん…」

と、奏さんは戸惑ったように答えました。

どうしたのでしょう。あまり元気がありませんが。

「心配しなくても大丈夫ですよ、奏さん。練習もしたことですし。誰より早く走りきってみせます」

「う、うん。それは心配してないんだけど、そうじゃなくて…物凄くその…はず、」

と、奏さんは言いかけました。

しかし、そのとき。

「おい、あいつリレー出るつもりなのかよ」

と、男子生徒は言いました。

振り返ってみると、そこには同じクラスの男子生徒がいました。

しかも、こちらを見ています。

「厚かましいよな。空気読んで休めば良いのに」

「それな。あいつのせいで負けるとか、すげー嫌なんだけど?」

「分かる。俺中2のとき同じクラスだったから。本当良い迷惑だったぜ」

と、次々にクラスメイト達は言いました。

…彼らの話から推測するに。

恐らく、奏さんのことを話しているものと思われます。

「つーか、何で今日出てきてんの?去年は休んでたじゃん」

「あー、なんか湯野に直訴したらしいぜ。策?があるから出させてくれって」

と、クラスメイト達は言いました。

「何だよ、策って?それで走れんの?」

「さぁ、知らね。モーター付き車椅子にでも乗ってんじゃね?」

と、クラスメイト達は言いました。

そして、その下らない思いつきに、ケタケタ笑っていました。

何か面白いものでも聞いたのでしょうか。

「とにかく、迷惑だけはかけないで欲しいよな」

「あぁ。またあいつのせいでビリとか、御免だからな」

と、クラスメイト達は言いました。

私には心がないので、彼らにこんなことを言うのは失礼かもしれませんが。

実に心無い言葉を言う人達です。

「あの人達、酷いこと言いますね。僕の学校にもハンディキャップのある生徒いますけど、『その生徒の分も、他の皆でカバーして頑張ろう』みたいな空気になりますよ」

「校風によって違うのだろう。人は本質的に、集団の中で異質な存在を、排他したがる生き物だからな」

「僕にしてみれば、ハンディがあろうとなかろうと、全員同じ人間に見えますけどねー。…あ、でも、何故か局長だけは他の人間より輝いて見えます。不思議な現象ですね」

「…お前の目に、そのような特殊加工をした覚えはないんだが…」

と、紺奈局長と碧衣さんは言いました。

二人の会話が、ここまで聞こえてきます。

良いですね、碧衣さんの学校は。

奏さんのようにハンディのある生徒を、排斥しようとはしないのですね。

しかし私がいるからには、奏さんのお友達になったからには。

あのクラスメイト達にも、目に物を見せてあげるとしましょう。