これは由々しき問題です。

人間的に言うなれば、聞き捨てならないという奴です。

私に心はありませんが、私に心があれば、心外であると言わざるを得ません。

「久露花(くろばな)局長」

「何かな?」

「先程局長は、私に致命的な欠点があると言いました」

「うん、言ったね」

「この発言は、冒頭の局長の言葉と矛盾しています。私が優秀な個体であると言っておきながら、致命的な欠点があるとも言いました。何故ですか?」

と、私は尋ねました。

「何だと思う?自分で考えてご覧」

と、局長は言いました。

「質問を質問で返すのは馬鹿のすることだと、以前教えられました」

「…」 

つまり、たった今久露花局長は、馬鹿だということが判明しました。

「成程、分かりました。この矛盾した発言、質問を質問で返す愚かな行為。全ては、局長が馬鹿であることが理由なのだと理解しました」

「ちょっと待って違う。そうじゃない」

と、局長は言いました。

何故か、とても慌てた様子です。

「局長は、自分が馬鹿であるという事実を否定されるのですか?」

「当たり前だよ!私は馬鹿じゃないもん」

と、局長は言いました。

何故か、とても焦った様子です。

馬鹿だと言われたことを、不服に思っているのではないかと推測します。

何故不服なのでしょう。

「安心してください、局長。以前読んだ電子書籍の中に、このような記述がありました」

と、私は言いました。

「な、何…?」

「『自分が馬鹿であることを自覚していない馬鹿は、救いようがない』と。つまりこの記述は、裏を返せば『自覚のある馬鹿には救いがある』ということです。従って局長には、まだ救いがあります。安心してください」

「…全ッ然安心出来ない…。それって結局、私が馬鹿だってことだよね…?」

「はい」

「…」

…何故でしょう。局長が、天を仰いでいます。

何か面白いものでも見えたのでしょうか。

私も局長と同じく天を仰いでみましたが、そこには研究室の見慣れた白い天井しかありません。

「…よし、分かった。もう、ズバリ正解を言おう」

と、局長は言いました。

「局長が馬鹿であるかどうかの真偽でしょうか」

と、私は言いました。

しかし。

「そっちじゃなくてね…?君の欠点の話」

と、局長は言いました。

確かに、先程までその話をしていましたね。

私としても、自分に欠点があるのは不服なので、是非とも教えて頂きたいものです。

「よし。教えてあげよう、君の致命的な欠点を」

「はい」

「心の準備は良いかな?」

「私には心がありません。やはり、局長が馬鹿ではないかという疑問は、本当だったと判断せざるをえ、」

「そういうところだよ!」

「…」

…と、

局長は言いました。