さて。ゴールラインを越えたので。

私はようやく、三人を地面に下ろしました。

「はぁ、はぁ…。し、死ぬかと思った…。…あ、齧りかけのパイの木の実が…」

と、久露花局長は、襟についたパイの木の実の食べかすを、手で払っていました。

人間、運搬されたくらいでは死なないと思うのですが。

局長は大袈裟ですね。

それに対し。

「楽しかったですね、局長!」

「…自分は、何も楽しくない」

「ですよね!僕が楽しかったら、局長も楽しいですよね〜」

「…」

と、碧衣さんと紺奈局長は言いました。

何だか不思議な会話ですが、これもお互いが深く分かり合っているからこそ、成り立つ会話なのでしょう。

羨ましいですね。

「…それで、1027番」

と、紺奈局長は言いました。

「はい。何でしょう?」

「もう戻っても良いか?」

と、紺奈局長は言いました。

一刻も早く、グラウンドを立ち去り、もといた場所に戻りたいようです。

「はい。ご協力ありがとうございました」

「いえいえ気にしないでください、瑠璃華さん。お陰で、局長と一風変わったデートが楽しめました!」

と、碧衣さんは言いました。

「…1110番。何故お前が答える?」

「じゃあ局長。観客席の方に帰りましょうか」

「…腕を組むんじゃない」

と、紺奈局長と碧衣さんは言いましたが。

やっぱり、腕を組んで帰って行きました。

仲良しですね。

そして。

「うぅ…。何で私がこんな目に…」

と、久露花局長は言いました。

乗り物酔いが酷いようです。

紺奈局長は、運搬されても、少しも動じていませんでしたが。

やはり貫禄が違いますね。

久露花局長の方が、歳上のはずなのですが。

「大丈夫ですか局長?今度はおんぶしてさしあげましょうか?」

「…結構です…」

と、局長は言いました。

そして、ふらふらと千鳥足で、ご自分のテントに戻っていきました。

何事もなく、借り物競争が終えられて良かったです。