「こんにちは。紺奈局長。元気だった?」

と、まずは小手調べに挨拶…、

…を、してみたのだけど。

『あぁ』

という紺奈局長の一言で、会話終了。

話続かないタイプ。

「この間ねぇ、近所で美味しいクッキーのお店を見つけたんだよ。バニラ味とかチョコ味とか紅茶味とか、色んな種類の味があってねぇ。あれは是非とも、紺奈局長にも味わって欲しかったよ。今度送るね」

『そうか』

やっぱり、会話が続かないタイプ。

でも、そんな雑談でも、一応最後まで聞いてくれるのは、彼の良いところだと思う。

『…本題に入っても良いか?』

そして、ちゃんとこうして確認をしてくれる辺りも、紺奈局長なりの優しさだと、私は思ってる。

思うことにしてる。

「良いよ、どうぞ」

『1027番の様子はどうだ?』

前置きも何もないよね。

本当に、ズバッと聞きたいことを聞いてくる。

話が早いと言えばそうなんだけど。

「うん。今のところ、楽しそうに学校に通ってるみたいだよ」

私は、先程の瑠璃華ちゃんからのメールを思い出しながら、そう答えた。

『それは本人が、「楽しく学校に通っている」と発言したのか?』

「いいや?彼女の様子を見て、私がそう判断しただけ。本人の口から、『楽しい』という言葉を聞いたことはないね」

『なら、まだ『人間交流プログラム』の効果が現れているとは言えない』

あぁもう、ほら。堅物なんだから。

「でも楽しそうだよ?お友達が出来たみたいだし」

『それは第4局から送られてきた報告書を見て把握している。友人が出来たことは、確かに『人間交流プログラム』の効果の現れだと思う』

でしょ?

だったら何も心配な、

『しかし、報告書によると、出来た友人は一人だけ。更には、その一人の友人を除いては、親しくなるどころか、距離を置かれているそうだな』

…ほう。

よく報告書を読んでるなぁ。偉い。さすが。

『つまり、これ以上友人を増やすのは、現状難しいということだ…。これでは、『人間交流プログラム』のこれ以上の成果は望めない。人間と交流する為の学生生活なのに、その人間と距離を置いているのだから』

「…うーん…」

『たった一人の友人からしか感情を学べないのなら、1027番が感情を得たとしても、それは1027番に出来た友人の感情に偏ったものになる。そんな偏った感情を、1027番固有の感情と呼べるのか?』

…難しい話し始めちゃった。

そこまで深く考えなくて良いんじゃない、と私は言いたいけどなぁ…。

大体、これから友達が出来ないなんて、決めつけるのはまだ早いんじゃないかな?

人生、何がきっかけで友達が出来るかなんて、分からないんだから。

それに。

「瑠璃華ちゃんのお友達はね、クラスで一人、除け者にされていた生徒なんだよ」

私は、紺奈局長にそう言った。

『…瑠璃華ちゃん?』

「1027番の名前」

『…分かった。続けてくれ』

では遠慮なく。

「瑠璃華ちゃんは、クラスで一人、皆から除け者にされている子に、手を差し伸べたんだ。車椅子に乗ってる子にね」

『…それは、他の誰にも相手にしてもらえなかったが、その車椅子の生徒には拒まれなかったから、友人関係を築けたのではないか?』

痛いところ突いてくるよなぁ。

でも、その通りなんだよ。

「そうだね。だけど、きっかけなんて何でも良いんじゃない?」

『…』

「クラスのあぶれ者同士がくっついて友達になったって、それは真の友達とは呼べないんじゃないか、って言いたいんでしょ?君は」

『…それは…。…あぁ。そう思っている』

やっぱり。正直だなぁ。

まぁ、そういう考えがあるのも、分からなくはないけど…。