アンドロイド・ニューワールド

そして、残されたのは。

「…も、もう喋って良い?瑠璃華さん」

と、奏さんは聞きました。

戦々恐々といったようすです。

「あ、はい。どうぞ」

と、私は答えました。

ずっと黙らせたままで、申し訳なかったです。

すると。

「ど、どうするの。湯野さんにあんな大見栄張って…!」

と、奏さんは言いました。

とても慌てた様子です。

やはり奏さんは、深呼吸をするべきですね。

「何がどうするんですか?」

「だ、だって…。瑠璃華さん、出場する種目も、湯野さんに勝手に決められて…」

「あぁ、それは別に何でも良いんです。むしろ、とても興味深い種目じゃないですか。借り物競争」

「え、そ、そう…?でも、枠が余って立ったことは、皆には不人気の種目だってことなのに…」

と、奏さんは言いました。

え、そうなんですか?

あんなに駆け引きの熱い種目は、他にないでしょう。

人間には心があるのに、心理戦は苦手なんですかね。

「確かに、初対面の相手にお金を借りるのは、難しいかもしれません。しかし、そこをどうやって懐柔し、言いくるめるかが、借り物競争の肝のいうもので…」

「え、ちょ…。瑠璃華さん、何を勘違いしてるの…?」

「はい?」

「借り物競争って、別にお金のやり取りはしないよ?紙を拾って、そこに書いてあるものをグラウンドの中で探して、それを持ってゴールするだけ」

「…」

と、私は無言になってしまいました。

…そうなんですか?

「え、な、何を勘違いしてたの…?」

「…白熱した心理戦は?巧みな弁術戦は?」

「…ありません」

と、奏さんは言いました。

世の中は無情です。

「…瑠璃華さん、今凄く残念そうな顔してるよ…」

と、奏さんは言いました。

私には心がないので、残念そうな顔をするはずがないのですが。

私は、借金競争をやりたかったのでしょうか。

いえ、ちょっと興味があっただけです。

どんな種目でも、私はベストを尽くすだけです。

…何だか、ちょっと残念な気がしなくもないですが。