アンドロイド・ニューワールド

「ま、待って瑠璃華さん」

と、奏さんは割って入りました。

「それには、理由があるんだ。うちの学校の運動会では、毎年必ず、学年別にクラス対抗リレーがあって、それにはクラスメイトの全員が参加しなくちゃいけなくて…。それで俺は、中学生のときに…走ることが出来なかったから。そのせいで、俺のいるクラスはビリになって…」

と、奏さんは色々説明しました。

が。

「奏さんは黙っててください」

「えぇっ」

「今私が話してるのは、湯野さんです」

と、私はきっぱりと言いました。

しかし、奏さんのお陰で、事情は大体分かりました。

「こ、こい…。ひ、緋村の言う通りよ。これまで緋村のいるクラスは、クラス対抗リレーで必ずビリになるの。走れないんだからね。一人だけ車椅子じゃあ、緋村のいるクラスだけ周回遅れ決定だもの」

「…」

「クラス対抗リレーは、星屑学園運動会の花形種目なの。一番得点も多く配点されるし。リレーで勝ったクラスが、一番の優勝候補なのよ。でも緋村がいたら、間違いなくリレーには勝てない」

「…」

と、私は無言で納得しました。

やはり、そういうことですか。

「緋村がクラスにいたら、最初から負け確なのよ。だから、去年から緋村には、運動会当日は休んでもらうことにしたのよ。どうせ、他の種目にも出られないんだし…」

「…」

「わ、分かった?そういう理由があるの。緋村一人のせいで、皆の運動会の思い出を駄目にしたくないのよ」

「…そうですか」

と、私は言いました。

奏さん一人を犠牲にして、自分達は運動会を楽しもう、と。

そういうことですね。

「それで、仮に優勝したとして、あなた方はそんな勝利で満足なのですね」

と、私は言いました。

個を大切にしない集団に、名誉ある勝利など有り得ません。

『新世界アンドロイド』にだって、あれほど個体差があるのです。

人間にも、それぞれ得意不得意があるのは当たり前です。

中には、運動が得意な人もいるでしょうし。

それこそ、剣や斧が降ってくることを望むほど、運動が苦手な人もいるでしょう。

そういった人達を全て集めて、集団でお互いの不得意を補い合って、勝利を掴み取ることに意味があるのではないのですか?

運動が得意な者だけを集めて、それで勝利して、満足ですか?

小学生相手に、高校生が取っ組み合いを仕掛けて、それで勝利したとして、あなた方は満足なのですか。

私でさえ、その程度の想像はつくのに。

この人には、それすら分からないのですね。

知能レベルが、オランウータンにも劣ります。

いえ、オランウータンと比べたら、オランウータンに失礼ですね。

あの、腹立たしい化学教師と一緒です。

「それは…でも…だって…仕方ないじゃない」

と、湯野さんは視線をぐるぐる彷徨わせながら言いました。

自分でも、満足していないことは自覚してるんじゃないですか。

そんなの不公平だって、自分でも分かってるんじゃないですか。

分かっている癖に、虚栄に満ちた勝利を手にする方を望みますか。

短絡的な生き物ですね。

更に。

「そ、そうだよ…。俺のせいで、皆が負けるようなことになるのはしのびな、」

「奏さんは黙っててください」

「…はい…」

と、奏さんは切なそうに引き下がりました。

済みませんが、今私が話しているのは、湯野さんなので。

今口を挟まれると困ります。