アンドロイド・ニューワールド

借り物競争、という種目がどんな競技なのかは、やってみたことがないので分かりませんが。

それは、後で調べてみるとしましょう。

借り物競争…。一体どんな競技なんでしょう。

見知らぬ通行人に声をかけ、金を無心し、いくら借りられたか、その額を競う競技でしょうか?

…興味深いですね。

人は、初対面の人間を相手に、どれだけの額を渡せるのかという実験になります。

そもそも、初対面で声をかけた人にお金を貸してもらえるか、そこから勝負が始まりますね。

そして、声をかけた人が、一定の額を持ち歩いていることも前提になります。

いかに、言葉巧みに相手を懐柔し、お金を貸してもらうか。

いかに、相手から少しでもお金を搾り取れるか。

かなりの心理戦が予想されます。

成程。興味深い種目です。

そんな種目に、転入生の私を出場させてくれるとは。

湯野さんは、確かにあの笑顔は悪癖ですが、心は優しい良い人なのかもしれません。

そんな彼女の気遣いに応える為にも、私は誰よりも言葉巧みに、誰よりも多額の借金をしてきましょう。

もしかしたら、その結果次第で、湯野さんも私と仲良くしてくれる、きっかけになるかもしれません。

まずは、奏さんを幽霊呼ばわりするのを、やめてもらうところから始めましょう。

うん、良い機会ですね。

と、思っていたのですが。

「ちょ…ちょっと待って」

と、奏さんは湯野さんに言いました。

「何よ?」

「何で、瑠璃華さんの種目を勝手に決めたの?種目決めは、本人の希望が優先でしょ?」

と、奏さんは言いました。

…そうなんですか?

「何で、いつの間に勝手に決めてるの?ちゃんと種目の説明をして、瑠璃華さんの希望を聞いてから決めてあげてよ」

と、奏さんは言いました。

すると。

「別に良いでしょ?他の種目に出る子は、もう決まってるの。借り物競争だけ余ってるから、電波ちゃんにはそれに出てもらうのよ」

「あ、余りって…。本人の希望も聞かずに、皆で勝手に決めて、それで余った枠を瑠璃華さんにやらせるなんて…。そんなの、皆がやりたくない種目を、瑠璃華さんに押し付けてるだけだ」

と、湯野さんと、奏さんは口論しました。

…何だか、私を巡って争っていますか?これはそういう状況ですか?

「ちゃんと、瑠璃華さんの希望を聞いてから決めて。一方的に押し付けるなんて、そんなの不公平だ」

と、奏さんは珍しく、怒ったように言いました。

あ、でも、さっきもちょっと怒ってましたね。

すると。

「は?足がない癖に、運動会で一番足引っ張ってた奴が、口出ししないでくれる?」

と、湯野さんは、禁断の一言を口にしました。