アンドロイド・ニューワールド

奏さんは、思わずポカンとしていました。

なかなかに、間の抜けた顔になっていますね。

大丈夫でしょうか。

「れ、0点…!?何で!?名前書き忘れた!?」

「いえ、名前は書きましたが…」

「じゃ、じゃあ何で…!?瑠璃華さんなら、百点満点も夢じゃないでしょ?」

「…さっきから、何を慌てているのですか?」

「そりゃ慌てもするでしょ!」

と、奏さんは言いました。

成程。

確かに、人間なら、時には慌てることもあるでしょう。

久露花局長も、今しがた食べようとしていた、高級チョコレートを床に落としたときなどは、とても慌てふためいています。

慌て過ぎて、チョコレートだけではなく、机の上のティーカップと筆記用具まで落として、床を大惨事に招いたこともあるほどです。

しかしそれを見て、私は学びました。

「奏さん。慌てても、良いことは何もありません。ここはゆっくり呼吸をして、ひとまず落ち着きましょう。はい、呼吸を合わせて。ひっひっふー」

「それ違う呼吸!あぁもう!瑠璃華さんって本当、何考えてるのか分かんない!」

と、奏さんは叫ぶように言いました。

私は、落ち着かせる為に言ったのですが。

何故か逆効果だったようです。

人間とは、難しい生き物です。

「大丈夫です、奏さん。私にも、奏さんが今何を考えているのか、分かっていませんから」

「そうでしょうね!」

と、奏さんは言いました。

これは…怒っている?のでしょうか。

何だか、奏さんの語気が荒いです。珍しいですね。

「怒りましたか?」

「え?」

「私は、大切な友達を怒らせてしまったのでしょうか?」

「え、いや…怒ってる訳ではないけど…」

と、奏さんはトーンダウン。

良かった。怒らせている訳ではないようですね。

「で、でも…何で瑠璃華さんが0点なの…?」

「?それは、一問も問題を解いていないからです」

「な、何で!?」

と、奏さんは聞きました。

またヒートアップしてますね。やはり怒っているのでしょうか。

「私は成績には頓着しないので。問題文に目を通したところ、これなら満点を取るのは可能だとは思いましたが、全科目満点を取ってしまっては、むしろ不正を疑われると言いますか、わざわざ空欄を埋めるのが面倒だったと言いますか、諸々の理由がありまして、結局…」

「…ねぇ、瑠璃華さん」

「…何でしょう?」

「どっちかと言うと、二番目の理由の方が強いんでしょ?」

「…」

と、私は無言でした。

凄いですね、奏さん。

私の考えていることが読めるとは、もしかしたら奏さんは、読心術の使い手なのかもしれません。

私には心はありませんけど。