…そんな名前だったんですね。

そういえば、彼の目は綺麗な碧色です。

「あなたも、紺奈局長と同じ苗字をもらったんですね」

「それは勿論!夢だったんですよ。紺奈局長と同じ名前で呼んでもらえるなんて」

と、碧衣さんは言いました。

それは良かったですね。

それで、もう一つ言いたいことがあるのですが。

「あなたの『人間交流プログラム』の実験結果が優秀なのは、人間の感情を理解出来ているからではなく、あなた自身が紺奈局長に喜んでもらいたくて、そのように振る舞っているだけなのでは?」

「え?そうですよ?」

「…」

と、私は思わず返す言葉を見つけられませんでした。

あまりにも、当たり前のように認めたので。

やっぱりそうだったんですね。

あなたのことだから、そうだと思いました。

「紺奈局長が考えた『人間交流プログラム』を、僕が見事に成果を出してご覧に入れる…。そうすれば、紺奈局長は喜ぶでしょう?そんな素晴らしい研究を考案した局長が、評価されるでしょう?」

「そうですね」

「だから僕は頑張るんです。より人間らしく、人間の振りをする。それが局長の喜びに繋がるなら、僕は何でもやりますよ」

と、碧衣さんは言いました。

局長の為に、全人類を殺してこいと言われたら、喜んでやりそうですね。

もとからそうですが。

「しかし、あなたがそのように考えていることは、紺奈局長も知っているのでは?」

と、私は尋ねました。

あなたの野心?魂胆?を、紺奈局長が見抜けないはずがありません。

私でも気づくくらいなのですから。

「知ってるでしょうね。でも、知ってても良いです」

「良いんですか」

「えぇ、良いんです。結果的に、局長が喜んで、そして認めてもらえるなら」

と、碧衣さんは言いました。

確かに、人格としては、あなたは歪んでいる部類に入るのかもしれませんが。

『人間交流プログラム』の効果は、しっかり現れてますね。

だってそんなあなたの考え方は、とても「人間的」ですから。

「そして、同じく『人間交流プログラム』に取り組むあなた。瑠璃華さんにも、僕は頑張って欲しいんですよ」

と、碧衣さんは言いました。

「何故ですか?」

「あなたが『人間交流プログラム』で結果を出せば、今より更に、この実験を考案した紺奈局長の評価が上がることになるでしょう?」

と、碧衣さんは言いました。

成程、理解しました。

あなたの行動原理は、いつもそれですね。

そして。

「ではあなたは、私に叱咤激励する為に、わざわざステルス機能で姿を隠してまで、盗み聞きしたってことですね」

「はい!」

と、碧衣さんは全く悪びれることなく、当然のような笑顔で言いました。

そう、笑顔で。

「同じプログラムを遂行する者同士、お互い頑張りましょうね。あなたに何の成果も出なかったら、紺奈局長の名誉に関わるので」

「…分かりました。努力しますよ」

と、私は答えました。

最早脅迫ですね。

無理です出来ません、なんて答えたら、この場で大乱闘が起きそうです。

それに。

いくら個体差があれど、同じ『新世界アンドロイド』として。

碧衣さんに出来ることが、私に出来ない理由はありません。

逆もまた然り、です。