アンドロイド・ニューワールド

「構わないと思いますよ?紺奈局長からは、『他のアンドロイドが『人間交流プログラムを』を受けている』と知らされただけで、会いに行っちゃいけない、とまでは言われてませんから」

と、1110番は答えました。

笑顔で。

そう、笑顔で、です。

これは、とても珍しいことです。

成程、会いに行って良いとも言われてないが、会いに行ってはいけないとも言われてない。

「だから、興味本位で会いに来たと?」

「はい。ついでに言うと、二人目が誰なのかを確認したかっていうのもありますね」

と、1110番は言いました。

それも、興味本位の発想なのでしょう。

とても珍しい行為です。

この1110番の、最も特徴的な点と言えるでしょう。

そして今会って、会話して、確信しました。

以前より、この特徴的な点が、強調されています。

つまり、1110番の個性が強くなった、と言えるでしょう。

成程、何故紺奈局長が、『人間交流プログラム』を立案し。

いの一番の被験者を、1110番に選んだのか、その理由が分かりました。

元々彼が、『新世界アンドロイド』の中でも、非常に「人間的な」個体だったからです。

その特徴をもっと伸ばす為に、わざと1110番を選んだのですね。

そして、1110番を最初の凡例として、他の『新世界アンドロイド』に…つまり私に…適用してみた。

今は、私がどのように変わるか、観察中という訳です。

「でも、意外でしたね」

と、1110番は言いました。

「何がですか?」

「『瑠璃華さん』が、『人間交流プログラム』の被験者に選ばれたことが、ですよ」

と、1110番は答えました。

…何でしょう。

さっきの、紅茶店での私と奏さんとのやり取りを、こっそりステルス状態で聞いていたのですから。

私の、人間としての名前。久露花瑠璃華という名前を、1110番が知っているのは、不思議なことではないのですが。

何故か1110番に、その名前で呼ばれると…。

謎の不快感を感じます。

別に私は、1110番が憎い訳ではないのですが。不思議です。

そもそも私には心がないので、例え相手が人であろうと、人でなかろうと、憎しみなど感じません。

「何故私が『人間交流プログラム』の被験者だと、意外に感じるのですか?」

と、私は聞きました。

「だって、あなたにはとてもじゃないけど、人間的な部分なんて欠片ほども持ってなかったでしょう?」

と、1110番は言いました。

…何故でしょう。

言われているのは事実なのに、胸の中に不快感があります。

フレンチトーストで、胸やけを起こしたのでしょうか?

『新世界アンドロイド』に、胸やけを起こす機能はついてないはずなのですが。

不思議です。

「それは、一人目のあなたが最も『人間的』な『新世界アンドロイド』だったからでは?」

と、私は言いました。

「はい?」

「ですから、一人目は元々『人間的』な『新世界アンドロイド』を被験者にし、確かに『人間交流プログラム』に効果があることを確認し…」

「あぁ成程。なら今度は逆に、最も『人間的』ではないアンドロイドを被験者にして、どのような結果になるかを観察してみよう。ってことですね?」

「そういうことですね」

と、私は答えました。

私には、久露花局長が何を考えているのか、紺奈局長が何を考えているのかも分かりません。

読心術など使えませんから。

しかしこの場合、そのような推測をすることが可能でしょう。