アンドロイド・ニューワールド

…しばし、そんな風にお喋りをした後。

そろそろ日も暮れてきたので、私と奏さんはお開きにすることにしました。

私は、私の分は自分で払うと言ったのですが。

どうしても奏さんは、「お礼だから、俺に奢らせて」と主張して、聞き入れてもらえませんでした。

では、お言葉に甘えて、ご馳走して頂くことにしました。

ありがとうございました。

そして、帰り道。

「バスは大丈夫ですか?宜しければ、私がご自宅、いえ、ご施設までうんぱ、」

「あー、うん大丈夫大丈夫。余裕で一人で帰れるから。運搬はしなくて良い」

と、奏さんは私の申し出を、速攻で断りました。

頑なに、運搬だけは断られます。何故でしょう。

理解不能です。

今日は、理解不能なことが多いですね。

「分かりました。では、ここでお別れしましょうか」

「そうだね。…それと、瑠璃華さん」

「…?何でしょう」

と、私は踵を返そうととしていた足を止め、奏さんに聞きました。

すると。

「ありがとうね、今回の試験…」

と、奏さんは言いました。

あぁ、そんなことですか。

「大したことではありません」

「うん、瑠璃華さんは何でもそう言うね。でも俺にとっては、大したことなんだ。いつも…」

と、奏さんは言いました。

…いつも?

「移動教室のとき、いつも車椅子を押してくれるのも。体育の授業に、一緒に参加させてくれるのも。放課後にバドミントンに付き合ってくれるのも。定期試験で、勉強会を開いてくれるのも。こうして一緒に、放課後に喫茶店で喋ったりするのも…。何もかも、俺にとっては大したことなんだ」

「…」

「自分の両親のこと、施設のことも、自分から話したのは、今日が初めてなんだ」

「…そうだったんですか」

と、私は言いました。

それは知りませんでした。

「そんな相手が出来るなんて、思ってもみなかった。…だから、ありがとう。ありがとう瑠璃華さん」

「…いえ、大した…」

と、私は言いかけましたが。

大したことなんですよね。それも。奏さんにとっては。

…そして多分、私にとっても。

「…大したことです。どういたしまして、奏さん」

「うん、そうだね」

と、奏さんは言いました。

お友達が、これは大したことだと言うなら。

そういうことなんでしょう。私には分からなくても、きっと。