アンドロイド・ニューワールド

学校でのことと言い、今度は奏さんの入っている施設と言い。

全く、誰も彼も、何故奏さんが車椅子に乗っているからといって、それが彼を厄介者にする理由になるのでしょう。

理解不能です。

「施設は、バリアフリーではなかったのですか?」

「ううん、ちゃんとバリアフリーになってたよ。エレベーターはないけど、階段に昇降機がついてるし、そもそも俺の部屋は一階にしてもらってるから、上の階に行く必要がない」

と、奏さんは説明しました。

「でも、本当は一階は本来なら、小学生以下の、もっと小さい子供が暮らす規則になってるから、その規則を捻じ曲げて、俺だけ、未だに高校生なのに一階で…」

「…」

「それは別に良いんだけど、そのことで、よく施設にいる中学生や高校生にからかわれるよ。足がないせいで、その分身長も低いし。知恵遅れだとか、チビだとか色々言われて…」

「…」

「あぁ、でも…。これでもマシになったんだよ。施設に入ったばかりのときは、職員の方も、車椅子の児童は初めてだったらしくて…服を着るにも一苦労で、介助するのに手間がかかるって…」

「…」 

「介助するのはしてくれたけど、よく溜め息をつかれたよ。『親戚がいるんだから、親戚のところに行けば良いのに』って言われたこともあるな…」

「…」 

と、私はずっと無言で、奏さんの話を聞いていました。

「…あ、ごめん。愚痴みたいになって…」

と、奏さんはハッとして、語るのをやめてしまいました。

「こんなこと話されても、瑠璃華さんも困るよね。ごめん…」

「…」

「…えっと…」

「…」

「…あの…瑠璃華さん…」

「…」

「…えっと、怒ってる?」

と、奏さんは私の顔色を伺うようにして尋ねました。
 
…怒る?

「…私には心がないので、怒るという感情は知りません」

「で、でも…瑠璃華さん、今凄く…怒ってる顔してたよ」

と、奏さんは言いました。

…え?

「怒る?私が?」

「うん…見たことないくらい険しい顔してたけど…」

「…」

と、私は無言で、窓の方を向き、自分の顔を映してみました。

…これが、険しい顔?

確かに、眉間に皺が寄っていますが。

これは、私が怒っている印なのでしょうか?

理解不能です。

理解不能ですが…。

何故か奏さんの話を聞いていて、とても、こう、何と言うか…。

その親戚とか、施設の職員とか施設に入ってる中高生とかを。

全員ぶっ飛ばしたい、とは思いました。