アンドロイド・ニューワールド

すると。

「いるよ」

と、奏さんは答えました。

やはりいたんですね。

しかしそれなら、親族がいるのに施設に入っている理由は…。

「両親が亡くなった後、親戚はこぞって、自分の家に俺を引き取ろうとしたよ」

「でも、行かなかったんですね?」

「うん。彼らは俺に同情して引き取ろうとしたんじゃない。両親が遺した財産と、あの事故で入った多額の保険金が目当てだったんだ」

「…成程」

と、私は言いました。

地獄の沙汰も金次第、という訳ですか。

世知辛い世の中です。

「元々両親は事業をやっていて、それなりに資産家だったから…。残されたお金は、かなりの額だったんだ。そして両親が亡くなれば、そっくり俺が相続することになってた…」

と、奏さんは言いました。

つまり、奏さんの親戚にしてみれば。

奏さん一人を引き取れば、セットで多額の遺産を出来た訳ですね。

「俺が車椅子生活をすることになったって聞いて、わざわざ家をバリアフリーにするから、って懐柔しに来た親戚もいたよ。バリアフリー化するのは口実で、古い家を建て替えたかっただけなんだろうけど…」

「…奏さんのお金で、ですか?」

「うん…」

「…」

と、私は思わず無言になりました。

なんと、厚顔無恥な人間もいたものです。

「バリアフリー仕様に建て直すから、うちにおいで(あ、費用はお前持ちな)」ってことでしょう?

私は人間ではないので、人情はありませんが。

その親戚の人々にも、人情というものがありませんね。

きっと奏さんを引き取っていても、ろくに面倒を見ず、金だけを搾取していたことでしょう。

「だから、自分から断った。誰の家にもいたくなかった。そうしたら、今の施設に入れられた」

「そうだったんですか」

と、私は言いました。

「でも、親戚の家にいても、施設に入っても、結局あんまり変わらなかったかも」

と、奏さんは呟きました。

「どうしてですか?施設なら、勝手に資産を使い込まれることは…」

「うん、それはない。お金のことは心配ない。けど…」
 
「…けど?」

「厄介者扱いされることは、親戚の家に行っても変わらなかったと思う」

と、奏さんは言いました。

…厄介者…。

「何故、あなたが厄介者なのですか?」 

「これのせいだよ」

と、奏さんは車椅子を指差して言いました。

…また、それですか…。