今日から私が転入することになったのは、一年Aクラスという学級です。

その学級を受け持つ、佐賀来(さがらい)という名前の女教師に、滔々と説明されました。

曰く、我が学園は、伝統を重んじているのだと。

そして、伝統に従順、慈愛と博愛の精神を持ち、心身共に逞しく、自らの手足で困難を打ち砕く、強い心を持つ生徒を育てているそうです。

何だか、色々な学校の校訓のバーゲンセールのようで、結局何を目指しているのか理解出来ませんでしたが。

要するに、この学園では伝統が重んじられているということなので。

この非機能的な制服も、本当は非機能的だと気づいているけれども。

伝統遵守という学園の方針から、今に至るまで変えずに、伝統を保持している可能性があります。

成程、理解しました。

しかし、あまり伝統に固執し、変化を避けるのは、それはそれで非合理的だと思います。

時代の流れによる風潮の変化についていけない、いえ、ついていかないということですから。

この人達は、車が道路を走り、飛行機が空を飛ぶ時代になっているというのに、未だにあぜ道を藁草履で歩くつもりなのでしょうか。

それは個人の自由だとは思いますが、他人に強要するのは間違っていると、私は思います。

まぁ、それはともあれ。

私は「伝統ある」制服を身に着け、佐賀来教師から、有り難い校訓を叩き込まれ。

いざ、私が今日から転入することになる学級に向かいました。

教師と共に教室に入ると、私は中にいた生徒達から、一斉に視線を浴びました。

視線によるスポットライトを浴びた気分です。

壇上に立つと、教室全体を見渡すことが出来ました。

一クラスの人数は、ざっと40名ほど。

正確な人数は、37名。

しかし今日から私が加わるので、このクラスは総勢38名になります。

すると。

「皆さん、今日から我がクラスの新しい友達になる生徒を紹介します」

と、佐賀来教師は言いました。

…ん?

もしかして、その新しい友達というのは、私のことなのでしょうか。

私は彼らのクラスメイトになるのであって、友達になったつもりはありません。

どうやら、佐賀来教師と私の間で、認識の齟齬があるようです。

しかし、彼女があまりにも、堂々としてそう言うので。

それを正して良いものか。

とりあえず、様子を見ることにしました。

「さ、自己紹介して」

と、佐賀来教師は言いました。

私が、自分で自己紹介をしろということなのでしょう。

分かりました。

人間は、初対面の人物を見たときに、まず顔や出で立ちで、その人の人柄を判断すると言います。

つまり、「人間は見た目じゃない、中身だよ」という綺麗事を言う人も、結局は最初の印象を、その人の見た目で判断している訳です。

皮肉ですね。

しかし今の私の場合、見た目の印象と言っても、皆と同じ制服を着ているので、見た目で判断することは出来ないでしょう。

では、彼らはどうやって、私に対する第一印象を判断すれば良いのか。

答えは簡単です。

これから私がする自己紹介によって、彼らは私がどういう存在かを判断すれば良いのです。