『しばらく見ないうちに、瑠璃華ちゃんに情緒の芽生えが見えて…私は嬉しいなぁ』

と、局長は言いました。

…情緒の芽生え?

「私の何処に、情緒が芽生えているのですか?」

『え?自覚ないの?』

「全くありません」

と、私は言いました。

私がいつ、情緒の芽生えを感じさせる言動をしましたか?

『瑠璃華ちゃん。君は先生達に反抗してるとき、凄く怒ってるみたいだったよ』

「怒ってる…。私が?」

『うん。怒りは立派な感情の一つだ。君は友達を侮辱されて、怒りという感情を感じていたんだよ。例え無意識だとしても』

と、局長は言いました。

とても嬉しそうに微笑んで。

私が…。

確かにあのときは、何故か不快だった記憶はありますが…。

あの不快感が、怒りという感情なのでしょうか?

「だとすれば、たまに久露花局長が、買ってきたチョコレートの箱を見て、『あー!これ間違ってブランデー入り買ってきちゃったー!苦い奴は無理!ヘレナちゃん、翠ちゃん、これあげる!』と言ってきたとき感じている不快感も、あれも怒りなのでしょうか?」

『う、う、うん…?そ、それは違うんじゃないかな…?…って言うか、不快感感じてたんだ…』

と、局長は曖昧に言いました。

そうですか。

あれは、怒りではないのですね。別の感情だそうです。

人間の感情とは、難しいものですね。

まず私は、自分が抱いている不快感が、怒りだと認識することさえ出来ませんでした。

『は、はい。私も同じく不快感を感じ…なくもないですが、あれは怒りと言うより、むしろ呆れ、』

『はいはい、その話はそのくらいにしておいてー』

と、局長は手を叩いて言いました。

何か、副局長に言われて不味いことでもあったのでしょうか。

『とにかく、今日は瑠璃華ちゃんに友達が出来たってことで、嬉しかったね!』

と、局長は言いました。

強引に、話を締めようとしているものと思われます。

『それと瑠璃華ちゃん、同じ人間なのは確かだけど、相手は先生。目上の人だから。君は間違ってないけど、でも言葉には気をつけること。敵を増やして、良いことなんて何もないからね』

と、局長は忠告しました。

「はい。気をつけます」

『はい、宜しい。じゃ、そういうことで、その女の子と、これからも仲良くね!』

と、局長は言いました。

…女の子?

私の一連の話の中で、一度でも女の子が出現しましたか?

と、私が首を傾げていることにも気づかず。

『それじゃ、また次の定期連絡で会おうね。緊急で何かあったら教えて。それじゃあね〜』

と、局長は言いました。

そして、通話が切れました。

…私の友達、奏さんは、男性であって、女の子ではないのですが。

局長は、何が言いたかったのでしょう。

よく分かりませんが、奏さんが男だろうが女だろうが、大した問題ではないので。

気にしないでおくことにしましょう。