アンドロイド・ニューワールド

『やっほー、瑠璃華ちゃん。元気〜?』

と、久露花局長は言いました。

何だか、久し振りに局長の顔を見たような気がします。

画面越しですが。

そして、「やっほー」という言葉は、山の頂上で言うべき台詞であって。

挨拶の為に使う言葉ではないと判断します。

それから、もう一つ付け加えて言うなら。

「私のバイタルデータの不調を危惧して『元気か』と尋ねているのであれば、そのような心配は必要ありません。今のところ、『Neo Sanctus Floralia』の手を借りなければ修復出来ない、深刻なバイタルデータの不調は見られません」

と、私は答えましたり

ちなみに、そのような不調に陥ったことは、私が稼働して、つまり生まれてこの方、一度もありません。

『新世界アンドロイド』のシステムは有能です。

『え、や、そういうことじゃなくて…。気分的にどう?元気?』

「気分?私には心がないので、気分の浮き沈みはありません」

『あぅ…。そ、そっか…』

と、何故か局長は残念そうに言いました。

『なんかこう…劇的な何かを期待してたんだよ、私は…。『人間交流プログラム』のお陰で、劇的に瑠璃華ちゃんが変貌を遂げた!みたいな奇跡が起こらないものかと…』

『局長…。それは多分…夢の見過ぎだと思います…』

と、局長と副局長は言いました。

一体どんな夢を見ていたのでしょう。

劇的な変貌…。

私がいきなり深海魚にでもなっていたら、喜んでくれていたのでしょうか。

残念ながら私は『新世界アンドロイド』なので、いきなり深海魚に変貌を遂げることは出来ません。

「申し訳ありません、局長…。私が不甲斐ないせいで、深海魚になった姿をお見せ出来ず…」

『え、いや。え…?何の話?』

と、局長は尋ねました。

だって局長は私の変貌を夢見ていたのでしょう、と言おうとしたら。

その前に。

『そ、それより!瑠璃華ちゃん、どう?あれから、クラスメイトとは上手くやってる?』

と、局長は尋ねました。

そう。今日はその話をしようと思っていたのです。

「それについて、報告が二つあります」

『二つ?』

「はい。一つ目は、友達が出来ました」

と、私は言いました。

そのときの局長の喜びようと言ったら、言葉では表せません。

『えっ、本当に!?出来たの!?本当に?本当の友達?前みたいな誤解じゃなくて、本当に本当の友達?』

と、局長は悔い気味に尋ねました。

語彙が、「本当」に偏っていますね。

とても研究者とは思えない、貧弱な語彙力です。

それはともかく。

「はい。私達友達になりましょう、と誘って、向こうが頷いてくれたので、友達です」

『本当に!?やったー!よく頑張ったね瑠璃華ちゃん!偉い!良かった〜。瑠璃華ちゃんなら出来ると信じて、』

「しかしその代わり、その友達以外の全てのクラスメイトと、一部の教師を敵に回しました」

『…』

と、局長は笑顔でガッツポーズを決めたまま、固まってしまいました。

副局長は、この報告を聞いてどうしたら良いのかと、おろおろしていました。

私は、この報告に対して、局長がどのような反応をするのかを待ちました。

そして、出てきた言葉は。

『…本当に?』

と、局長は言いました。

やはり、語彙力が偏っているようです。