アンドロイド・ニューワールド

そして、授業が終わり、化学教師のいる理科室を出るなり。

「瑠璃華さんっ…」

と、奏さんは言いました。

とても焦った様子です。

「何か面白いものでもありましたか?」

「何も面白くないよ!先生に向かってあんなこと言って…」

と、奏さんは言いました。

あんなこと?

…あぁ、授業が始まったときの、あの口論のことですね?

「余計なお節介でしたか?」

「…それは…」

「お節介だったなら、申し訳ありません。でも私、どうしても言わざるを得なかったんです」

「…どうして?」

と、奏さんが聞きました。

「あの教師に罵倒されたとき、あなたが辛そうにしていたので。友人の名誉と尊厳を、守らなければならないと思ったのです」

「…瑠璃華さん…」

「あなたは、他人に責められるようなことは、何もしていないのですから」

と、私は言いました。

奏さんが辱められているということは、その友達である私も、侮辱されているのと同じこと。

二人揃って侮辱されているのを、黙って見過ごすことは出来ませんでした。

「恐らくこれ以降、あの教師があなたの遅刻を批難することはないと思います」

と、私は言いました。

人間、一度お灸を据えておくと、しばらくは大人しいと言います。

とはいえ、世の中には、喉元過ぎれば熱さ忘れるということわざもあるので。

あの化学教師が、喉元の熱さを忘れて、また奏さんへの暴言を始めるかもしれません。

「それでもまた、何か言ってくるようであれば…私が許しません。あなたが許さなくても、私は許しません。私はあなたの友達ですから。友達は大事にします」

と、私は言いました。

友達は『人間交流プログラム』の中で、最も重要な要素だと、久露花局長におそわりました。

だから、私は友達を大事にします。

「…そっか」

と、奏さんは言いました。

「ご迷惑でしょうか?」

「ううん…。…ありがとう、瑠璃華さん」

と、奏さんは言いました。

礼を言われるようなことをした覚えはありませんが。

奏さんが微笑んでいるので、きっとこれで良かったのでしょう。