自分が近づいたら、奈央から色々なものを奪ってしまうんじゃないかと怖くなった。

大切な人の幸せを壊すことだけはしたくない。 

……それに、奈央の隣には別の男がいたから。


転校してきて少し経った頃、休み時間にクラスの男子が奈央の話をしているのが聞こえてきた。

「一組の平田って美人だし性格もいいし勉強もできて言うことなしだよなー」

「たしかに。あーでも同じクラスのバスケ部の大野といい感じらしいぜ」

「大野ってバスケ部エースの大野結人?マジかー、美男美女でめっちゃお似合いじゃん。ああー俺も平田みたいな彼女欲しいわ」

そんな話を聞いて、奈央の中に自分はもういない、勝手にそう確信したんだ。

話がしたくてたまらない。抱きしめたくてたまらない。

……だけど困らせるようなことはしたくない。


学校で奈央を見かけるたび、辛くて仕方なかった。

「伊南くんのことが好きなんです。私と付き合ってくれませんか?」

こんなことを言われる機会が増えた。

高二の冬という変な時期に転校してきたのもあって、俺は注目されているようだった。

「気持ちはありがたいけど俺、好きな子がいるんだ」

毎回決まってそう答えた。嘘じゃない。

初恋の人。そんな簡単に忘れられるわけがなかった。