まだ待ち合わせ時刻よりも十五分早いのに、遥はいた。広い公園の何個かあるベンチの一つに、一人腰を下ろしている。

呼吸を整えて、私は遥の元へそっと足を進めた。

心臓が高鳴っているのは、走ってきたからなのか緊張しているからなのか、恋をしているからなのか、どれかはわからない。

その全部かもしれない。


ベンチの中央に座っていた遥は、私の存在に気づいてなにも言わずに少し横にずれてくれた。

私はその空いたスペースにそっと腰掛けた。


少しの間、私も遥も何も話さなかった。でもその空間が妙に心地よくて。

まだ秋とは程遠い、夏のむし暑さが残る夕方。


どれくらいの時間そうしていたかわからないけど、遥が口を開いた。

「具合は?もう平気なの?」

他のことで頭がいっぱいで、今日倒れたことなんてすっかり忘れていた。

「うん。保健室でしっかり休んできたから大丈夫。ありがとう」

「そう、よかった。……それにしても、九月に入ったけど暑いな」

「……そうだね。今年は十月になっても暑い日が続くらしいよ」

こんなときでさえも中身のない会話をする私たちは、お互い不器用な性格なんだと、今やっと気づいた。


……たった一言。

わかってるのに。肝心の言葉は出てこなくて、どう伝えていいのかもわからない。