「別にケンカしたとかじゃないんだけどね」

結人くんとは今でも距離がある。

挨拶をしても素っ気ないし、前よりも目が合わなくなった。

「あーわかった!さては倦怠期だな。大丈夫、私もあったから。それを乗り越えて、二人の絆は深まるんだよ」

澪はわかったように肩をポンポン叩く。

完全に勘違いしてるけど、その明るさにいつも救われてる。

……特に今は、その明るさが心にしみる。

文化祭を前日に控えた日の夜。予備校で出された課題を解いていた。

明日が楽しい文化祭だろうと、受験生ということに変わりはなく、手を抜いてはいられない。浪人がかかってるんだから。

『明日の文化祭、一緒にまわろう』

約一ヶ月ぶりに結人くんからのラインがあった。

不安定だった関係もまた元に戻れるんだ。

私は、結人くんに自分の気持ちを隠し通すと決めたんだ。


……でも、ずっとじゃない。

そのうち、この気持ちもきっと薄れていって、いつか結人くんだけを思える日が来る。

だからそのときまでは、今の気持ちを無理になくすのではなくて、心にそっとしまっておこうと思う。

いつもそばにいてくれた、私を好きだと言ってくれた、大切な結人くんを傷つけることはできない。