……別に、デートじゃない。

遥とホームセンターにペット用品を買いに行くだけだ。

わかってる。それなのに、朝からなんでこんなに張り切ってるんだ私……

普段薄化粧な私が、まつ毛をあげてマスカラをつけて、チークと口紅もつけて、髪は入念にアイロンを当てた。おまけにヘアコロンまで。

結人くんとのデートでも着たことがないワンピースを、タンスの奥から無意識に引っ張り出していた。

白とグレーの襟付きギンガムチェックのワンピース。ウエストが細めになっていて、そこに大きめのリボンが付いた女性らしいデザインだ。

去年の誕生日にお母さんに買ってもらったんだ。

「このワンピース可愛いんだよなー」

しかもシワが気になってアイロンまでかけてしまった……

「はあ、なにやってんだ私……」

部屋の鏡に映った自分に向かって呟き、肩を落とす。

自分の気持ちがわからなくなって思わずため息が出た。

玄関の鏡でも最終チェックをし、前髪を整えているとお母さんがリビングから出てきた。

「あら奈央。似合ってるじゃないそのワンピース。そんなオシャレして、今日はもしかしてデートなの?」

「……だから、デートじゃないってば」

今のはお母さんに言ったわけじゃない。

たぶん、ずっと思ってた心の声が言葉となって漏れてしまったんだ。

「なーにそんなにムキになってんのよ。ちょっと聞いてみただけじゃない」

「……ごめん、私が悪かった。いってきます」

『お母さんにムキになってたわけじゃない。自分自身に対してなんだ』なんてお母さんに言えるはずもなく……

申し訳ない気持ちのまま家を後にした。