「えっめっちゃかっこいいんだけど!」

「あれはやばいね!モデルみたいだわ!」

なんていう声も聞こえてきたし女の子ばかりが集まっているから、転校生は男だということがすぐにわかった。


「どれどれー?」

澪は私の腕を掴んだまま人混みをかき分けていき、教室の中が見える位置までくるとキョロキョロと教室を見渡していた。


……もう、私人混み苦手なんだってば。

隣にいた子の腕がぶつかる。


はぁ、教室戻りたい……

「お〜あの人か!人が集まるだけあるわー!かっこいいよ奈央」

さらにグイっと腕を引っ張られ、仕方なく教室を覗き込む。

「……私はいいって言ってるのに。……で、どの人?」

「ほらあそこ!窓側の一番後ろに座って本読んでる黒髪サラサラヘアーの彼!」

澪が指さした方向に視線を向ける。

そこには、カバーがかけられた文庫本を片手に凛とした佇まいで席についている、私の知る横顔があった。


……ずっと、会いたかった人。


——一瞬、時が止まったかのようになにも考えられなくなって、誰もいない世界に一人取り残されたかのような気持ちになった。