「二組の伊南遥くん」

スポンジですずりを洗う手が一瞬止まる。

「転校生なんだけど、奈央知ってる?」


遥は誰が見てもかっこいい。

だから彩月が遥のことかっこいいって言っても全然不思議なことではない。


……それなのに、なんでこんなにも胸のあたりがざわざわするんだろう。

私はいったい、遥に何を望んでるの?


「奈央?」

「あぁ、ごめん。二組の伊南くんだよね?もちろん知ってるよ。隣のクラスだし」

「奈央、かっこいいと思わない?性格も良いみたいだし」

「うん、かっこいいと思う。よし!終わったー」

自分で話題を振ったくせに、この場にいるのが耐えられなくなった。

これ以上、彩月から遥の話を聞いていられる自信がなかった。

荷物をささっとまとめて彩月と他の部員に声をかける。


「彩月、私先に行くね」

「うん。結人くんと楽しんでね」

彩月は良い子だよなぁ、自分勝手な私と違って。ほんと部長にふさわしいよ。

そんなことを思いながら書道部のある五階から教室のある三階まで、小走りで階段を駆け下りた。