ふ〜ふふ〜ん♪
1人の鼻歌が静かな夜の街に溶ける
ゴギッグチャグチャバギャッ
ふ〜ふ〜ふふふ〜ら〜ららら〜♪
本当に愉快そうな鼻歌に釣られ、俺はつい
音の方向へと足をすすめてしまった
それを、後悔するとも知らずに…
ら〜ら〜ら〜ら〜ふ〜ふ〜♪
声が近ずく
もうすぐそこにいる…
ゴギャギャバキッ!ベチャッ!!!
「あ…」
目を向けた先には、もう形のない肉片と飛び散った大量の血液
それを楽しそうに、まるで玩具のように肉片を地面に叩きつけ、血液と同時に飛び散る
ゴキゴキッという骨を折る音や、ベチャベチャッと肉や脂肪が潰れ肉片となる音、バキバキャバギャという骨が割れていく音が大きいためか、まだこちらには気づいていないようだった
よし、このままそーっと逃げよう…
そうして、後ろへ1歩下がった時
ジャリジャリジャリパキッ
あ…
その時、人影がゆっくりとこちらを振り返る
真っ赤な瞳、遠目からでもわかるべっとりとした黒髪
その真っ赤な目と俺の目があった
「…せんせー?」
そう俺の働く塾に通っている生徒だった
真っ赤な瞳が印象的でよく覚えている
「先生だよね?そうだよね?え、なんでいるの?先生の家って逆方面だよね?」
ずいずいっと、距離を縮めてくるその子は、なぜか俺の住所を知っているらしい
「きょ、今日は散歩したいなって思ってたんだ。そしたら、この近くに夜景が綺麗なところがあるって…」
「誰がそんなこと言ったの?この近くに夜景が綺麗なところあるのは事実だけど、タクシー使ったがはやいよね?」
「だから、散歩したい気分だったから…」
「ふぅ〜ん」
疑いの目で俺を見る
事実、ここの近くに夜景が綺麗な場所あるからそこ集合で、その場所で酒を飲もうということになっていた
だが、俺の方向音痴のせいで道を間違えてしまい、とにかく明るい所へ出てタクシーを捕まえようと思っていたのだ
この子…葛西桜香(かさい ほのか)の家はこの辺りではなかった気が…
「と、ところで葛西の家もこの辺りじゃなかったよな?な、なにしてるんだ?」
真っ赤な瞳にじっと見つめられ動揺してしまう
真顔になってじーっと見られ、沈黙が流れる
「…別に?楽しいことしてストレス発散してただけ」
「楽しいことって…」
くるりと振り向き、戻っていく
「せんせーはさ」
ゴキッベチャッグチャグチャ
「ストレスとか溜まんないの?」
バキッ!ベチャグチャッ
「私はねー」
グチャグチャベチャ!
「家にいるのがストレスなんだー」
そう言いながら、肉片を片手に俺の方へと戻ってくる葛西
「ね、せんせーもこっち側じゃない?」
…確かに、俺もストレスは溜まっているし、今の葛西の様に人を…
人を殺したくなる衝動に駆られることも多々ある
留まることができたのは、今の仕事もだが、今現在進行形でしている自傷行為のおかげだろう
自慢じゃないが、怒ることも少ないし、人を傷つけることもない
だが、確実にわかる
俺は葛西と同じだ
こんな時でさえ、冷静にどう答えるのが正解なのか考えてしまう
顔は、焦っているのかわからないが、汗が顔を伝う
「…何言ってるんだ葛西。早く家に帰らないと補導だぞ」
そう言って冷静を装い、再び歩く
後ろで肉片がベチャッと音を立てる
その後すぐ、走って駆け寄ってくる葛西
「せーんせー?無視は良くないと思いますよー?」
「葛西…お前な…」
「はーい、葛西でーす。なんですかー?」
「…はぁ…お前を家に送ってからでも遅くはないから、送っていく」
約束の時間までまだまだ時間がある
大人というのはいいことで夜中の1時からということになっている
その時間から3時4時まで飲むだろう…グッバイ俺の肝臓…
「…さっき言いましたよねー?私家にいるのがストレスなんだって。それでもなお私を家にかえす気ですか?」
「ストレスかもしれないが、補導されて親に何か言われるよりマシだろう。」
「別に大丈夫ですよ。今日泊まりに行くって言ってあるのでー」
どうするべきか…
「てなわけで、せーんせっ。今日泊めてください」
「………は??いや俺今から飲むんだが…??」
「知ってますよー。それまで友人の家で女子会でもしておくので、そのあと迎え来てくださいよー。」
「いやいやいや、なんで泊まる気満々なわけ???泊めないよ、犯罪だし」
「えぇ、犯罪なら私もう犯してるんで大丈夫ですよー」
「俺が!大丈夫じゃないんだが???」
「うーん、犯罪犯しちゃいます??」
なんでそうなる…?
俺は犯罪は犯さない
未成年を家に泊めるどころか、友人を家にあげたこと自体数回しかない
掃除はするし、物が少ないため殺風景過ぎてつまらんと言われるくらいだ
そもそも、家に人をあげるのがいやなのに、生徒を家にあげる…??
無理な話だな
「せーんせー。私、真面目に泊まるところないんですけど」
「家に帰ればいいだろ」
「だーかーらー、泊まりに行くって言っちゃったんですって。今帰ったらなんで帰ってきたのか聞かれてめんどくさいんですー。ね?だから泊めてください」
「無理だな。ここから家まで、電車で40分だから、その言い分、俺は飲めない。約束は破らない主義なんだ。諦めるんだな」
スマホのマップをいじりながら、そう答える
「えー、せんせーつまんなーい」
ケラケラと目が笑っていないにも関わらず、楽しそうに振る舞う葛西。
「その女子会?とやらが終わった後そのまま泊めてもらえば一石二鳥だろ」
「いやいや、流石に前もって約束してないと泊まりはキツいですってー。ね?もうせんせー泊めてくださいよー」
「犯罪犯したくないから、やめてくれるか?」
そう言うと、すっと真顔になって
「ならここで死ぬ?」
真っ赤な瞳の中に黒く渦巻く闇、その闇に魅入られたかのように目を離せない
ハッと乾いた呼吸が、2人の静寂に溶ける
「…今回だけ。特別だぞ。分かったな」
「わーい。せんせーならそう言うと思ったー。あ、明日がっこーないし、そのまま塾」
「朝になったら秒で帰れ。それが条件」
またジトっと見られるが、こればかりは負けられない
それを察したかのように目を逸らし、数歩先に行く
「仕方ないですねー。わかりました。今回はその条件を飲みましょう。」
「だから、今回限りだと言ってるだろ」
そんなことお構いなしに話を勧めてくる葛西
コイツは頭いいのか悪いのか…融通が効かないだけなのか…
バレれば犯罪
バレなければ…無罪か
「朝ごはんは私が作りましょうか?」
…俺に食べさせる気か…?
「いや、俺が作ろう。和食でいいか??」
「えー…オムライスがいいー」
むぅと幼い子供のように拗ねる葛西
「…不味くても知らないからな」
「大丈夫大丈夫!!丸焦げでも美味しいから!」
なんだそれ…
口を開こうと思った時
ピロリンピロリ
着信音が鳴る
俺か…
「はい。」
『お!花崎!こっち来れそうかぁ?!』
この人…既に飲んでんな…
「あー…あと30分くらいで着けそうです」
『お!りょーかーい!なるべく早めに解散しよーと思ってよー、出来るんなら3軒くらい行こうと思ってんだけどよー』
「…2軒目までは付き合いますよ」
『お、やったね!んじゃまた!』
「はい」
視線を感じて、チラリと見る
「…なんだ…」
「2軒目行くの?」
「多分行くだろうな」
「じゃあ私は、バイトして暇つぶししとくね、せんせー、迎えきてね!」
バイト…?
聞こうかと思ったが、既に葛西は豆粒サイズに見えるくらい遠くに行っていた
葛西は突飛だ
成績は上々といったところだが、あんな感じで言いたいことだけ言ってどこかに行ってしまう
学校での様子は、他のクラスの男子や女子から聞ける
葛西は学校では、いわゆる人気者らしい
入学の試験でも首席で、それ以来首席で居続けているとか
体育もトップ、なんでもこなす才色兼備のマドンナと言われているとかなんとか
「アイツと…似てるからなのか…この親近感…これが…」
同類…というものなのか
1人の鼻歌が静かな夜の街に溶ける
ゴギッグチャグチャバギャッ
ふ〜ふ〜ふふふ〜ら〜ららら〜♪
本当に愉快そうな鼻歌に釣られ、俺はつい
音の方向へと足をすすめてしまった
それを、後悔するとも知らずに…
ら〜ら〜ら〜ら〜ふ〜ふ〜♪
声が近ずく
もうすぐそこにいる…
ゴギャギャバキッ!ベチャッ!!!
「あ…」
目を向けた先には、もう形のない肉片と飛び散った大量の血液
それを楽しそうに、まるで玩具のように肉片を地面に叩きつけ、血液と同時に飛び散る
ゴキゴキッという骨を折る音や、ベチャベチャッと肉や脂肪が潰れ肉片となる音、バキバキャバギャという骨が割れていく音が大きいためか、まだこちらには気づいていないようだった
よし、このままそーっと逃げよう…
そうして、後ろへ1歩下がった時
ジャリジャリジャリパキッ
あ…
その時、人影がゆっくりとこちらを振り返る
真っ赤な瞳、遠目からでもわかるべっとりとした黒髪
その真っ赤な目と俺の目があった
「…せんせー?」
そう俺の働く塾に通っている生徒だった
真っ赤な瞳が印象的でよく覚えている
「先生だよね?そうだよね?え、なんでいるの?先生の家って逆方面だよね?」
ずいずいっと、距離を縮めてくるその子は、なぜか俺の住所を知っているらしい
「きょ、今日は散歩したいなって思ってたんだ。そしたら、この近くに夜景が綺麗なところがあるって…」
「誰がそんなこと言ったの?この近くに夜景が綺麗なところあるのは事実だけど、タクシー使ったがはやいよね?」
「だから、散歩したい気分だったから…」
「ふぅ〜ん」
疑いの目で俺を見る
事実、ここの近くに夜景が綺麗な場所あるからそこ集合で、その場所で酒を飲もうということになっていた
だが、俺の方向音痴のせいで道を間違えてしまい、とにかく明るい所へ出てタクシーを捕まえようと思っていたのだ
この子…葛西桜香(かさい ほのか)の家はこの辺りではなかった気が…
「と、ところで葛西の家もこの辺りじゃなかったよな?な、なにしてるんだ?」
真っ赤な瞳にじっと見つめられ動揺してしまう
真顔になってじーっと見られ、沈黙が流れる
「…別に?楽しいことしてストレス発散してただけ」
「楽しいことって…」
くるりと振り向き、戻っていく
「せんせーはさ」
ゴキッベチャッグチャグチャ
「ストレスとか溜まんないの?」
バキッ!ベチャグチャッ
「私はねー」
グチャグチャベチャ!
「家にいるのがストレスなんだー」
そう言いながら、肉片を片手に俺の方へと戻ってくる葛西
「ね、せんせーもこっち側じゃない?」
…確かに、俺もストレスは溜まっているし、今の葛西の様に人を…
人を殺したくなる衝動に駆られることも多々ある
留まることができたのは、今の仕事もだが、今現在進行形でしている自傷行為のおかげだろう
自慢じゃないが、怒ることも少ないし、人を傷つけることもない
だが、確実にわかる
俺は葛西と同じだ
こんな時でさえ、冷静にどう答えるのが正解なのか考えてしまう
顔は、焦っているのかわからないが、汗が顔を伝う
「…何言ってるんだ葛西。早く家に帰らないと補導だぞ」
そう言って冷静を装い、再び歩く
後ろで肉片がベチャッと音を立てる
その後すぐ、走って駆け寄ってくる葛西
「せーんせー?無視は良くないと思いますよー?」
「葛西…お前な…」
「はーい、葛西でーす。なんですかー?」
「…はぁ…お前を家に送ってからでも遅くはないから、送っていく」
約束の時間までまだまだ時間がある
大人というのはいいことで夜中の1時からということになっている
その時間から3時4時まで飲むだろう…グッバイ俺の肝臓…
「…さっき言いましたよねー?私家にいるのがストレスなんだって。それでもなお私を家にかえす気ですか?」
「ストレスかもしれないが、補導されて親に何か言われるよりマシだろう。」
「別に大丈夫ですよ。今日泊まりに行くって言ってあるのでー」
どうするべきか…
「てなわけで、せーんせっ。今日泊めてください」
「………は??いや俺今から飲むんだが…??」
「知ってますよー。それまで友人の家で女子会でもしておくので、そのあと迎え来てくださいよー。」
「いやいやいや、なんで泊まる気満々なわけ???泊めないよ、犯罪だし」
「えぇ、犯罪なら私もう犯してるんで大丈夫ですよー」
「俺が!大丈夫じゃないんだが???」
「うーん、犯罪犯しちゃいます??」
なんでそうなる…?
俺は犯罪は犯さない
未成年を家に泊めるどころか、友人を家にあげたこと自体数回しかない
掃除はするし、物が少ないため殺風景過ぎてつまらんと言われるくらいだ
そもそも、家に人をあげるのがいやなのに、生徒を家にあげる…??
無理な話だな
「せーんせー。私、真面目に泊まるところないんですけど」
「家に帰ればいいだろ」
「だーかーらー、泊まりに行くって言っちゃったんですって。今帰ったらなんで帰ってきたのか聞かれてめんどくさいんですー。ね?だから泊めてください」
「無理だな。ここから家まで、電車で40分だから、その言い分、俺は飲めない。約束は破らない主義なんだ。諦めるんだな」
スマホのマップをいじりながら、そう答える
「えー、せんせーつまんなーい」
ケラケラと目が笑っていないにも関わらず、楽しそうに振る舞う葛西。
「その女子会?とやらが終わった後そのまま泊めてもらえば一石二鳥だろ」
「いやいや、流石に前もって約束してないと泊まりはキツいですってー。ね?もうせんせー泊めてくださいよー」
「犯罪犯したくないから、やめてくれるか?」
そう言うと、すっと真顔になって
「ならここで死ぬ?」
真っ赤な瞳の中に黒く渦巻く闇、その闇に魅入られたかのように目を離せない
ハッと乾いた呼吸が、2人の静寂に溶ける
「…今回だけ。特別だぞ。分かったな」
「わーい。せんせーならそう言うと思ったー。あ、明日がっこーないし、そのまま塾」
「朝になったら秒で帰れ。それが条件」
またジトっと見られるが、こればかりは負けられない
それを察したかのように目を逸らし、数歩先に行く
「仕方ないですねー。わかりました。今回はその条件を飲みましょう。」
「だから、今回限りだと言ってるだろ」
そんなことお構いなしに話を勧めてくる葛西
コイツは頭いいのか悪いのか…融通が効かないだけなのか…
バレれば犯罪
バレなければ…無罪か
「朝ごはんは私が作りましょうか?」
…俺に食べさせる気か…?
「いや、俺が作ろう。和食でいいか??」
「えー…オムライスがいいー」
むぅと幼い子供のように拗ねる葛西
「…不味くても知らないからな」
「大丈夫大丈夫!!丸焦げでも美味しいから!」
なんだそれ…
口を開こうと思った時
ピロリンピロリ
着信音が鳴る
俺か…
「はい。」
『お!花崎!こっち来れそうかぁ?!』
この人…既に飲んでんな…
「あー…あと30分くらいで着けそうです」
『お!りょーかーい!なるべく早めに解散しよーと思ってよー、出来るんなら3軒くらい行こうと思ってんだけどよー』
「…2軒目までは付き合いますよ」
『お、やったね!んじゃまた!』
「はい」
視線を感じて、チラリと見る
「…なんだ…」
「2軒目行くの?」
「多分行くだろうな」
「じゃあ私は、バイトして暇つぶししとくね、せんせー、迎えきてね!」
バイト…?
聞こうかと思ったが、既に葛西は豆粒サイズに見えるくらい遠くに行っていた
葛西は突飛だ
成績は上々といったところだが、あんな感じで言いたいことだけ言ってどこかに行ってしまう
学校での様子は、他のクラスの男子や女子から聞ける
葛西は学校では、いわゆる人気者らしい
入学の試験でも首席で、それ以来首席で居続けているとか
体育もトップ、なんでもこなす才色兼備のマドンナと言われているとかなんとか
「アイツと…似てるからなのか…この親近感…これが…」
同類…というものなのか


