後ろから海鳳の肩に顎を乗せて、甘えた声を出す。
彼は私を指さして、笑顔で「雪穂、見てた。やっぱりこのドレス似合ってるし、可愛い」と言う。
けれども何故かその言葉を信じ切れず、彼が写真の中違う女性を見つめている様な気がした。

海鳳と付き合い始めた頃、彼は自分の忘れられない女性が門脇 桜子さんであると教えてくれた。
家族や仕事の関係で結婚式には来ると思うから、と添えて。

噂では聞いていたし、アイリーンとしての自分でも聞いていた話だった。
けれど聞いている話と実際会うとでは訳が違う。

大手調剤メーカーのソアンホールディンクス一人娘、門脇 桜子。共に参列していた夫は神経質そうな線の細い男性だった。

愛のある結婚ではなく、政略結婚だったらしい。結婚して五年経つが、二人の間に子供はいなかった。

初めて見た桜子さんは艶々の長い黒髪が印象的な、きりっとした顔立ちの女性だった。  けれど海鳳へ向ける視線はとても柔らかかった。

もう考える事なんて止めたいのに。

差し出した両手は後ろからぎゅっと海鳳の首周りを抱きしめる。 ふんわりと海鳳の香りがした。