「でも俺、元気で前向きな雪穂と一緒に居るとそれだけでいい。
だから雪穂もそのまんまで俺にとっては十分なんだよ」
側にいると、勘違いもしたくなってしまう。
いつだって優しくしてくれて、甘い言葉を投げかけてくれる。
でも勘違いしてはいけない。 そう何度も言い聞かせて、大好きな海鳳の胸にぎゅっと顔を埋めると、隣から静かな寝息が聴こえてきた。
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「成瀬ちゃーん!おっと、早乙女ちゃーん」
「成瀬でいいですよ。早乙女ちゃん、呼びづらいでしょう?」
「アハハ、何かまだまだ結婚した実感ってわかないもんだね。 やっぱ成瀬ちゃんは成瀬ちゃんの方が呼びやすいわ!」
職場でも相変わらず’成瀬ちゃん’と呼ばれている。
そのせいなのか、自分が入籍して’早乙女’って苗字になった実感は私自身も余りわかないものだ。
名前が変わるといちいち患者さんなどにも説明しなくてはいけないので、院内では元のまま’成瀬 雪穂’として働いている。



