迷いの森の仮面夫婦


「そういえば、今度の土曜日は午前の診療が終わった後、高塚先生とホームレスさん向けの健康相談に行ってくる」

ベッドの中、私を抱き寄せて海鳳が言う。
高塚先生は、全くお金にならないボランティアの仕事も引き受けている。
海鳳はそういった彼をとても尊敬していて、彼の部下としていつも仕事に同行している。

「うん、了解。じゃあ、晩御飯はいらないのかな?」

「そうだね。きっと高塚先生に夜飲みに誘われると思うから。
遅くなるかもしれないから、先に寝ててもいいよ」

「分かったよ~~」

「何か、忙しくって本当にごめん。 でも今度は休みを合わせて雪穂の行きたい映画もカフェも何でも付き合うからね」

「全然謝らなくたっていいよ。 私高塚先生の事は尊敬しているし、その高塚先生みたいな医師になりたいっていう海鳳の事も尊敬してるからねっ」

暗闇の中でも、彼がやんわりと微笑むのが分かる。
ぎゅっと私を自分の方に抱き寄せると、一層海鳳と密着した形になって安心できる。