迷いの森の仮面夫婦


「いいんです…。実はどうしても忘れられない人がいたんですが、それは叶わない恋だったから今回は傷心旅行のようなもので…」

私の髪を撫でる彼の手がぴたりと止まる。 それと同時にゆっくりと小さく息を吐いた。

「奇遇だな。何か君とは初めて会った気がしない。」

「奇遇?」

「俺も、どうしても忘れられない人がいるんだ。
だから誰を抱いても、誰と付き合っても結局は長く続かなくって…。
相手が本気で自分を好きだって思うと、どうしても申し訳ない気持ちになってしまって。
だから女性とは付き合ってもあんまり長く続かないんだ」

「そう、だったんですね…」

「その人とはどうしても一緒になれないから仕方がないんだけどね。
それで代わりに違う女の人を抱いてても空しくって。 それにこういうの相手にも失礼だろう。
それでも寂しくて仕方がなくって、虚しい繰り返しばかりして人を傷つけている」