迷いの森の仮面夫婦


ほぼ毎週のように彼はやって来て、訊かなくても知りたがっている情報を落としていってくれた。

看護師たちの噂を照らし合わせて、彼の片思いしている相手を割り出せた。  それが大手調剤メーカーソアンホールディンクスの一人娘、門脇(カドワキ) 桜子(サクラコ)である事も。

海鳳とは幼馴染で、彼の二つ年上のその女性は、数年前にとある男性と結婚している。  決め手になったのは、彼が好んで付き合う女性の一つの共通点黒くて美しい長い髪だ。  彼はきっと、いつも自然に桜子さんに似ている女性を選んでいるのだった。

「本当に先生になら何でも話せるから不思議だ」
「実は自分は友人にも本音をあまり言わないタイプで」
「占いも信じていなかったけれど、先生に話を聞いて貰えると心が落ち着くというか」

出会った当初彼の職業と家族関係を当てただけでここまでのめり込んでくれるとは意外だった。 それだけ彼の中にある悩みが根深いという意味でもあったのかもしれないが。

そして聞きたくはなかった桜子さんへの想いも聞くはめになってしまう。