どれだけ快楽に溺れたくとも、ぎゅっと唇を噛みしめて声を堪える。

顔も見せずに、声も出さない、私の髪を優しく撫で甘い吐息を漏らしても
この行為に愛がないのは重々承知だからだ。    彼は私を抱く時、違う誰かを重ねている。私に限った事じゃない。誰に対してもそうなのだ。

全てを承知の上で、全てを許したのはこの私自身なのだ。 海鳳の寂しくて一人では越えられない夜を、せめて埋める為だけに存在するとしてもいとわない。

海鳳が私と結婚してくれたのは、私がこの世で彼の希望を叶えてくれる女であっただけのこと。
この結婚に愛はない。

それでも優しく抱かれると、勘違いしたくなる日もある。
海鳳とした約束はたった二つ。

’子供を作らない’事と、’互いに愛さない’事だけ。  だから私は今日も嘘をつく。 彼の事なんて心から愛していない素振りを見せて、互いに理由があっての結婚だと彼の前で豪快に笑ってみせる。