言葉を失いもじもじとし始めた私が小さな指で淡いピンクのコスモスを指さすと、それに気が付いたかのように「ああ」と言って、声の主はコスモスに手を伸ばした。

「コスモスが欲しかったんだね、はいどうぞ」

淡いピンク色のコスモスを一本千切ると、その人は私の耳元にそれをかけてくれて
目を細めやんわりと微笑む。
その場で立ち尽くし、言葉も忘れてただただその人の顔をじいっと見つめていた。

白いシャツと赤いチェックのズボンを履いた私より幾つか年上の男の子。

彼に目が奪われた理由は、大好きだった童話の王子様がいきなり目の前に飛び出してきたからだ、と思ったからだろう。

童話通りの金髪碧眼ではなかったけれど、太陽の光を燦燦と浴びた透き通るような茶色の髪とビターチョコレートのような瞳は
紛れもなく、私だけの王子様だった。

だから私はその日から、本物の王子様は茶色の髪と茶色の瞳をしているのだと信じ込んでしまったのだ。

「綺麗な黒髪だね。 お姫様みたいだ」

やっぱり王子様なんだ! お城の中には、王子様がいるものなのだ。