迷いの森の仮面夫婦


「新しく入った介護士さん?」

私の着ていたピンク色のスクラブを見て、彼は再び口を開く。
言葉も忘れて、じいっと彼のスクラブからぶら下がる名札を見ていた。

写真入りのそれには、病院名の下に内科医、早乙女 海鳳と印刷されている。
間違いない。改めてこの人があの海鳳であると顔を見てもう一度確認する。

「はじめまして、四月から勤務している成瀬と申します。」

ぺこりと頭を下げて顔を再び上げた瞬間、変な焦燥感に襲われじんわりと額に汗が滲んだ。
’こんな姿で……’  彼の爽やかな笑顔を見て羞恥心に見舞われる。

一日中動き回る仕事で体力も使う。 入浴介助なんてした日には汗をびっしょりとかくから、化粧してもあんまり意味がない。

だから基本はすっぴんだ。 唯一の自慢である黒く長い髪も仕事の邪魔になるので一つにお団子でくくっている。  恥ずかしく思えるほど、元々整った顔立ちではなかったけれど、せめて二十年ぶりの再会は綺麗な自分でいたかった。