しとりしとりと外から小さな雨音が聴こえて来た。
そういえば季節はすっかり秋を迎えようとしていたんだ。 またクリニックの隣にある早乙女家のお庭では、様々な色をつけたコスモスが咲き乱れるだろう。
クリニックの窓から見える、始まりの場所を見つめていた。
雨のせいで空は太陽を隠し、庭先は少しだけ薄暗い
幼い頃は大きくて深い、深い、森のように見えた。
もう一度だけ自分のお腹を優しくさすり、海鳳の顔を瞼の裏に思い出した。
私達夫婦は迷いの森に入ってしまい、何度もすれ違った。
道は一つだったはずなのに、勝手に複雑にして迷い込んでしまった。 ――けれど、見つけたんだ。大切な物を
これは、私が迷える森で見つけた 嘘のような本当の夫婦の話。
完結



