迷いの森の仮面夫婦


介護福祉士はうちでは基本的には病院で勤務する。  週に三回訪問介護の付き添いをして、それ以外は病院で看護師さん達の雑用のような仕事だ。

入院患者の入浴介助をしたり、シーツの交換清掃。医療器具の洗浄。時間が余ればナースステーションの整理整頓もする。

配膳や食事の介助をして、体位交換などもするから結構肉体労働だと思う。 介護士の中ではヘルニアを患っている人が多かったりする。 力のない人間を抱えたりするのだ。当然だろう。

夕方に資料を整理して、介護記録の申し送りをしていたら一日はあっという間に過ぎていく。

それにくわえて、夜勤もあって、早番遅番もあるので時間も不規則だ。   そんな風に慣れない東京で忙しい仕事をして過ごしていったら、二ヵ月はあっという間に過ぎ去ってしまった。

まさか、この病院に海鳳がいるなんて夢にも思わなかったから、忙しさと共に今まで意識をしなかっただけなんだ。

その日の夕方、介護記録を見ながらナースステーションにある電子カルテが眼に入った。  そこに医師名「早乙女 海鳳」ときちりと記載されているではないか。

それでもまだ、それが海鳳だとはにわかに信じがたかった。
同姓同名?

こんなに珍しい名前なのに、まだ信じられなくてどこか夢見心地な気分だった。
三日後、実際に彼をこの目で見るまでは。