迷いの森の仮面夫婦


「どんなにモテても……女性を大切にしない男性なんて私は嫌です」

私の言葉に看護師たちは甘いため息を漏らしながらも顔を見合わせる。
早乙女って名前、案外どこにでもあるのかもしれない。

お家が病院を経営しているって、海鳳と同じだけれど…。
東京は人口が多いから、こういう偶然もあるかもしれないし。

「でもね、早乙女先生どれだけ女性と付き合っても長続きしないし、結婚もしないのよね。
噂では、昔婚約者を亡くしたとか…。それから本気で女性とはお付き合いしないらしいの」
「それもそれでロマンチックですよね~~~。
あの早乙女先生の儚くって今にも消えてしまいそうな優しい笑顔が母性本能をくすぐるんですよね。
あ~一度でいいから抱かれたい」

婚約者を本当に亡くしたのならば、それがロマンチックなものか。
噂話に花を咲かせていると、申し送りの時間になって今日も一日仕事が始まる。

しかし環境整備や排せつ介助が終わっても、何故かさっきの看護師たちの話が頭から消える事がなかった。