迷いの森の仮面夫婦


高塚先生は私も知っている。 なんせ私は彼のチームの一員となって動く事が多いからだ。
看護師たちが彼を’人格者’だというのも頷ける。

今年六十歳を迎える彼は、未だに現役の医師として特に重要な役職もなく現場を飛び回っている。

若い頃に医療機関もまともに整っていない国にボランティアに行った事から、貧困医療に感銘受け救える命が目の前にあればどこにでも行くという信念を胸に掲げ今も現場でばりばりと働いているアグレッシブな人だ。

彼の医者としての功績が認められて大きな病院の院長にもと誘われた事がある、という噂だがその話を蹴って未だに彼は勤務医としてこの幕原病院にいるのである。


高塚医師を尊敬していない人など、この病院にはいないのではないだろうか。
誰に対しても平等に振る舞い、どんな貧困な患者にも同じ目線で立っているような人。

休日もボランティアで仕事をしているような人だ。  私も彼について訪問介護に行ったりするけれど、どこに行ったって高塚先生は患者達からも尊敬されている。