朝、海鳳は「今日は十九時には上がれるかな?」と言っていた。
しかし時刻は既に二十時過ぎ。 急患や病院で緊急の何かがあったのだろうか。
それとも雪の影響で交通に支障が出ているのだろうか? そんな事を考えながら冷めていくチキンを見つめていた。
二十時半過ぎに、テーブルに置いてあった電話が鳴り響く。
電話に出るとがやがやした場所に居るのか、声が聴きとりづらかった。
「もしもし?」
「――、ほ――。で――」
「もしもーし?」
てっきり一人で駅のホームにでもいるのかと思ったら、がやがやとした雑音の中に「海鳳」と彼を呼ぶ甘い声がはっきりと聴こえた。
それが桜子さんの声だと直ぐに分かったので、気づいた時には電話を切ってしまっていた。
海鳳が桜子さんと一緒に居る。 胸がぎゅっと締め付けられるほど苦しくなって、その場で力なく座り込む。



