病院を辞めると言った時、海鳳は反対はしなかった。 でも疑問に感じた事は幾つもあっただろう。
私は仕事にやり甲斐を感じていたし、何より幕原病院は働きやすかった。
冗談で、じゃあうちの実家のクリニック手伝っちゃえば?と言われたけど、首を縦には振らなかった。
私が幕原病院を辞めるのは、海鳳との繋がりを切る為だったから。 けれどそれを彼には告げずに、もっとゆっくり働ける職場に再就職するつもりだ、と誤魔化した。
最後まで彼に嘘をつくというのは心苦しいが、そうでもしなければ彼との繋がりを断ち切れない自分がいた。
「成瀬さんならこれからも早乙女先生の支えになって行けると思う」
高塚先生は皺だらけの顔をくしゃくしゃにして、私へと微笑みかける。
一緒に居ると似てくるっていうものだけど、高塚先生の誰に対しても慈悲深いその笑みは海鳳を思い出させる。



