迷いの森の仮面夫婦


「この間みたいに食事も取れない程具合いが悪かったら、必ず連絡することですよ。
矢沢(ヤザワ)さん自己判断で危なかったんですからね。
僕的には一度入院をしてほしい所ですけど」

「絶対に病院なんて嫌だね。 あの空気感が苦手なんだ。それに俺は長くねぇから、死ぬ時は家がいいんだ」

余っていた有休を消化する為に、後出勤する日数も僅か。

今日は高塚先生と一緒に患者さんの元へ訪問していた。 私も彼について、家のお掃除から入浴介助までしたりする。

八十歳を超える矢沢さんは極度の病院嫌いで、身よりもなく小さなアパートで一人暮らしだ。 だからこうやって定期的に高塚先生や海鳳が家まで訪問する。

私もここ数年ですっかり顔馴染みになった。

「そういえば、矢沢さん。 今日で彼女最後なんだ」

「そうなんかい、雪穂ちゃん。 もしかしておめでたか? 確か早乙女先生と結婚したんだよな?」