もしも海鳳が桜子さんと結ばれる日が来るとしたら、私は身を退かなくちゃいけない。

愛される事を望んではいけなかったのに、たった一つ彼の愛だけを欲しくなる。 欲張りになって、いつしかその歯止めが止められなくなる。

幸せだと思えば思う程、失う辛さに耐えきれなくなる日が必ず来る。  ――だからこんな結婚など、そもそもの間違いだったのだ。

熱海の早朝、海鳳は規則的な寝息を刻んでベッドの上に居る。

朝の光を浴びながら、昨日海鳳がくれた手紙をゆっくりと開くと、便せんを持つ手が震えて、徐々に涙で文字が滲んでいく。

私の事を愛していないのにこんなに大切にしてくれるあなた。
優しいあなたの為に、私が出来る事。

耳を澄ませば
少しずつ降り積もって行く雪のように、ゆっくりと別れの時間が迫っている音を静かに感じていた。