桜子さんは私の両手をぎゅっと掴むと、柔らかい笑顔を浮かべた。

握り締められた両手を振り払いたかったけれど、それじゃあただの嫌な奴になってしまうから、にこりと精一杯の笑顔を作る。

「ありがとうございます。桜子さん達もご旅行ですか?」

「ええ、最近陸人さんが忙しくって中々休みが取れなくって、私達も久々に旅行にきたの。
ねぇ、陸人?」

「ああ、桜子には寂しい想いばかりさせちゃってるから、たまにはという事で今日は来たんだ。
それにしてもすごい偶然だね……まさか宿泊先まで一緒とは」

「海鳳とは小さい頃家族でよくここの旅館に泊まってたの!海鳳のおじちゃんお勧めの旅館だもんね!
私、大人になってからも陸人さんや友人とよくここに泊まりにくるの。
すっごく素敵な旅館だから!  でも偶然海鳳達と会えるの嬉しいなあ。ねぇ、後で皆でゆっくり話さない?せっかくだし!」